「これじゃ生産者から買うより安いじゃないか」とぼやいた場立ち【熊野孝文・米マーケット情報】2021年9月21日
先人が残した相場の格言に「もうはまだなり、まだはもうなり」と言うのがある。新米の相場は「もう下げ止まった」はずであったが、17日にWeb上で開催された業者間の席上取引会ではコシヒカリ2等が9100円、彩のきずなが8500円で成約するなどまだ下げ止まっていない。一方で同じ日に農水省が主催した「現物取引市場」検討会の実務者会議では「まだそんなことを言っているのか」と思えるような発言もあった。
関東では早生の集荷が終盤に入り、主力のコシヒカリの出回りが本格化している。17日のWeb上の席上取引会では、産地業者から茨城コシヒカリ2等置場9100円の売り物が出て、消費地の白米卸が買い声を上げ即決で成約した。新米コシヒカリは幼穂形成期の高温によるシラタの発生や長雨による品位の低下により格落ちする玄米が多く、場所によっては8割方が2等落ちしたところもあるという。品位落ちしたコシヒカリの売り物が増加したことにより、ふくまる、一番星、あさひの夢、彩のきずななどいわゆるBランク米は8000円台でなければ値が通らなくなってしまっている。それ以上に水面下で2年産米の処分玉が出回っており、これが新米の価格を押さえつけている。新米を集荷している産地業者の実情は「集荷したら下がる」の繰り返しで、取引会では場立ちがあまりにも安い売り物が出ることから「これじゃ生産者から買うより安いじゃないか」というぼやきの声が上がるほどになっている。
リアルな席上取引を模しているWeb上の取引会では、画面上でリアルなやり取りが行われるので、より深くコメの価格がどのように決まって行くのかが分かる。例をあげると消費地業者が「持ち込み条件」で千葉ふさこがね1等を9000円の買い声を上げたが、産地業者は「置場条件」でなければ売り応じなかった。運賃200円相当が利益の境目であったことが良く分かる。おそらく産地業者の仕入れ原価は税込み9000円以上であったものと推察できる。もちろん仕入れ原価より高値で売れるという保証はどこにもなく、産地業者は自己のリスクで集荷を行っており、そのために様々な情報を収集して先行きの価格動向まで判断する。プロなので当然ことで、自分たちが決めた価格で売れなかったからと言って国に後始末を要請するというようなことは考えない。
現物取引の席上取引会の現場では、品位等級はもちろん、ロット、荷姿、運送方法、受渡し時期など様々な取引条件がやり取りされるのでデジタル画面上だけでは処理できない。コメの取引がデジタル化できない最大の要素なのだが、以前、大手証券会社から依頼を請けてコメの現物取引がデジタル化できるまでの「手順」を示した企画書を提出したことがあった。
手順を示したのにはわけがあり、この大手証券会社は堂島の筆頭株主で、一般投資家にコメに関心を持ってもらうべく、コメの小口証券化を手掛け、実際に新潟コシを先物市場で現受けして、それを5kg精米に仕立てて社員に販売した。この時、この証券会社の社長は「現物にして販売するのにこんなにコストがかかるのにはビックリした」と言っていた。デジタル画面上で証券を売り買いする会社にとって現物を扱うのは初めてのケースであったが、コメの本上場が不認可になったので「もうこんなことをする必要はない」。
同じ日に農水省が主催して開催されたコメの現物市場検討会の開催趣意書には「コメの生産現場においては、コメの需給実態を表す価格指標として十分な現物市場が存在しておらず、農業団体をはじめ関係者が協力し、様々な用途の需給に応じた価格形成を行う現物市場の創設について具体的に議論して行くことが必要とされている。このため価格形成の公平性・透明性を確保しつつ、コメの需給実態を表す価格指標を示す現物市場の創設を検討し、農業者、集荷業者、卸売業者、実需者の経営に資するよう、農林水産省において、関係者が参加するコメの現物市場の検討会を設置することとする」としている。
また、現物市場の創設に関する決議がなされるまでに示された主な意見として「指標価格の必要性」については(1)概算金の決定に関して各県段階で苦慮している中、コメの現物の公平・公正な指標価格が必要(2)産地銘柄だけでなく、用途別のニーズに応えられるような指標価格が必要(3)現物市場で様々な銘柄、品種が取引され、それが指標として機能すれば、コメの需給に関するシグナルとして農業者が作付けする際の参考になる―などと記されている。
価格形成センターが閉鎖されてから10年になるのに「まだこんなことを検討しなければならないのである」。
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