(250)高齢社会の「まだ」と「もう」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年9月24日
敬老の日、「高齢者3,640万人、世界最高の29%、4人に1人が就労」という報道を見ました。コロナもそうですが、我々が現在直面している状況は人類が過去に経験したことのない環境ということを強く感じた次第です。
1984年に就職した際、確か定年は55歳であったと記憶している。しばらくすると57歳になり、いつの間にか60歳になった。筆者自身すでに還暦を超えている。20代前半の頃に見た当時の60歳の方のイメージはまさに「高齢者」であったが、最近はどうも個々の差が大きく、外見では年齢が全くわからない時代となった。
古い笑い話に「むこうから、どこの爺さんがあるいてくるのかとショーウィンドウに映る人影を見ながら歩き、近づいたら自分だった」というのがある。また、18歳と81歳の典型的な行動を出してジョークにしているものなどもある。
正直に言えば、20代の頃、自分の60代など全く想像できなかったし、仮に想像しても、恐らくはリタイヤして孫と遊ぶ日々...、のような漠然としたイメージしか無かった記憶がある。
40年後の現実はと言えば、40代、50代の頃と同じか、場合によってはより多忙になっている気がする。これは加齢による作業能力の低下が影響しているのかもしれないが、それよりも、かつては不要であった仕事や作業が大幅に増加したことによる影響が大きいのではないか。
また、自分の親が介護対象年齢になると、人によっては「人様の世話になるより、何とか自分のことは自分で...」という意識になる方も多い。筆者自身もそういう傾向がある。
だが、数十年前と現在とでは周囲の環境が大きく異なる。かつて高齢者の世話は多くの女性が専業主婦として家庭の様々な仕事とともに担っていたのであろう。
高齢者は自宅で一生を終えることが当たり前の時代から、核家族化が進んだ結果、病院で最期を迎えることが普通になり、現在、再び在宅に流れが変化しているようだ。
男性が働き、女性が介護を含めた家庭の事をすべて担っていた時代から、夫婦ともに、あるいは独身でも性別に関係なく仕事を持ち、社会に出ることが中心となった現代社会では、日中の仕事を行いつつ、時間を見ながら自宅の高齢者の介護を行うのはどうしても限界がある。まして、転勤族であればなおさらであろう。
そこで公的な介護制度というものが具体的な形として形成され、ケア・マネジャーやヘルパー、訪問看護を行う看護師の方、さらにはデイサービスやショート・ステイなど、様々な仕組みが充実してきた。
これらはすでに当たり前と思われているが、未だにこうした制度を知ってはいても、実際に頼ることに対して心理的抵抗感がある方も多い。先日もそういう方と話をしたばかりである。
いろいろと事情を聞き、自分自身でもそれなりに経験し、周囲の状況を見る限り、奇妙なもので前職での現役時代、穀物取引を教えてくれた先輩から聞いた格言を思い出す。
「まだはもうなり。もうはまだなり。」
どうもこれは高齢者介護にも当てはまるようだ。ついこの間まで出来ていたことができなくなる。本当のギリギリまでいくと、実は本人も周りもかなり疲労が蓄積する。自分自身が該当すると思う方は、「自分は別」と思わず、そうなる前に、是非、公的な介護サービスへの相談をして頂きたいと思う。恐らく、当人にわからない形で、あるいはそれなりの形で、周囲がしっかりと支援しているはずだからだ。自分自身で客観的な判断を下せる時間は、人にもよるが意外に短いと理解しておいた方が良いかもしれない。
変な例えだが、メガネやコンタクトを使用しているから良く見えるのであり、その補助具が無ければ、自分の生活能力は大きく後退する...これと似ていると思えば良い。初めて他人のサポートを受けるのはハードルが高いかもしれないが、一度、思い切って踏み出すことは、長い目でみた場合、本人にも、そして家族にも良いことになると思う。
* *
仕事をしながら、ふとした雑談で高齢者介護の話になることが増えてきました。人口ピラミッドを見る限り、高齢社会、これからが本当の本番だと思います。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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