非常勤理事こそ農協の強み【リレー談話室・JAの現場から】2021年9月28日
農協の非常勤理事は大変だ。普段は別の仕事に就きながら、月1回の理事会では難しい経営判断を迫られる。経営責任は重い。その上、組合員を代表して経営に参画している多様な非常勤理事こそが農協の強みと思う。最近、各県の非常勤理事研修会で話している一端を紹介したい。
非常時が地域の問題を明確化
どこの集落でも地域農業を支えてきた担い手が高齢化し、新規就農者の定着はなかなか成功しない。地域全体でも人口が減少し子どもたちの数は減った。子育て世代の負担が増えている。将来に夢を持てない子どもが多い。未婚者の多くは経済的理由から結婚に踏み切れない。
コロナ危機は、学生のアルバイト収入を失わせ、エッセンシャルワーカーなどで生計を立てていた経済的弱者を直撃している。寿命が延びたことは喜ばしいはずなのに老老介護が当たり前。介護離職も今は団塊世代によって集落機能が維持されているが、2025年には全ての団塊世代が後期高齢者になる。その後のわが地域・農業はどうなるのだろうか。
コロナという非常時は、これまで地域の皆でなんとか解決してきた問題を深刻化させつつ、あらわにした。非常勤理事はこのような地域社会・地域農業におけるさまざまな問題の中で日夜、頑張っている。
食と農を基軸として地域に根差した協同組合である農協が目指すのは、持続可能な地域農業と地域社会の実現であって、収益性はその責務を果たすための制約の一つに過ぎない。
将来の夢をみんなで描く
持続可能性とは今だけの短期志向ではなく、子や孫の世代の幸せを願い、私たちが負の遺産を渡さぬように今できることをやることだ。そのためには、将来の夢であるビジョンが必要だ。わが地域農業・地域社会の5年、10年後の姿を描くというビジョンの大事さは、過去、何度もJAグループは運動として掲げており、農政でも人・農地プランの中で位置づけた。しかし、補助金のための形式だけに終始しがちだったことは素直に反省している。
だからこそ、コロナにより課題が明確になった現状において、改めて組合員主体による地域のビジョンをつくることは、子や孫の祖先となる私たちが今しかできないことだ。中央会が書いたひな形のコピペだけでは、わが地域の課題解決の役にたたないことは経験上わかっている。だからこそ、団塊の世代が現役のうちに組合員主導で自らの地域農業・地域社会のビジョンをつくる最後のチャンスではないか。
そして、ビジョンを描き、地域をまとめるリーダーは、自分たちの地域を最もよく知り、現役組合員を代表する地区選出の非常勤理事や組合員組織代表出身の理事しかできないことだと思う。
支所の将来の姿を描く
農協が競合各社から羨望される強みは、支所(支店)ごとにさまざまな組合員組織活動があることだ。組合員組織活動こそが、地域の多様な問題解決に取り組んできた。組合員の世代交代が終焉をむかえつつあり、組合員組織の世代交代が課題である。人の結合体である協同組合は人と人との結びつきやお互いの顔の見える人間関係が大切なのだから、趣味の会のような小さなグループを含めて世代交代にあわせて組合員組織を活性化したい。
ただし、支所の職員数は減少している。事業が右肩下がりだから組織活動の予算も限定される。組合員組織は自主的な組織だから、組合員の自主性を尊重し、職員はお手伝いに留めなければ組合員組織のよさは活かされない。
今、全国各地で支所統廃合の議論が始まっている。自分たちの地域のビジョンづくりは統廃合後の支所の姿とリンクせざるを得ない。組合員が不安になるのは将来の支所の姿が見えないからだ。厳しい数字を含めて組合員に情報開示したうえで、5年、10年後を見据えた支所の姿を組合員主体で描く鍵は非常勤理事にある。
素直な質問で若手育成
非常勤理事の皆さんにお願いがある。わからないことは素直に質問してほしい。恥ずかしくとも、素直に思う疑問は組合員誰もが当然思う問いである。その問いに対して誠意をもって説明することは組合員との対話に他ならない。
加えて、そのような素直な質問は支所の若手職員を鍛え育てることになる。優秀な職員ほど「組合員さんに育ててもらった」と振り返っている。非常勤理事は多様な経歴と背景をもつ。この多様性を活かすことは相当面倒であるがゆえに農協の強みとなる。
(藤井晶啓・日本協同組合連携機構=JCA=常務理事)
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