「水稲集団栽培」の普及【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第167回2021年10月14日
1960年代に全国の稲作農家が追求した多肥多収、この達成にあたって問題となったのは防除だった。いい農薬、防除機はできたが、いかにそれをうまく用いても効果があがらないことがあるからである。自分の田んぼで適期に防除しても隣にまだ防除していない田んぼがあるとそこから病原菌や害虫が侵入して収量が落ちてしまう、つまり個々の農家がばらばらに防除しても効果があがらないことがあるのである。

そこで必要となるのが、集落単位での共同防除だった。集落の農家全戸共同で大型防除機を導入し、みんないっしょに一斉に農薬を散布するので、効果はこれまでに比べてかなりあがる。
しかしそれだけでは効果が不十分だった。それぞれの田んぼの品種や植え付け時期が異なると適期防除の日にちがそれぞれ異なるので、一斉防除してもすべての田んぼに効果があるとは限らないのである。
もう一つの問題は、労力不足である。高度経済成長下での次三男労働力の都市流出、小規模農家の労力の農外流出(このことについてはまた後で述べたい)は、農繁期の労力不足をもたらしていた。とくに田植え労働の不足は深刻だった。稲刈りも厳しかったが、適期の短い田植えはさらに厳しく、とくに規模の大きい農家は雇用労働の確保に走りまわらなければならず、確保できなくて田植えの時期が遅れることさえあった。これでは一部の田んぼの収量が落ちるだけでなく、そこは一斉防除の恩恵を受けることができず、他の農家の田んぼに迷惑をかけることにもなる。
こうした問題を何とかして解決し、単収の頭打ちを打開しようとして生まれたのが「水稲集団栽培」だった。集落ぐるみで協定を結んで品種、田植え時期、初期の水管理、施肥の量や時期等を統一し、防除の適期を一致させて効果的に共同防除をする、また集落の全員が一斉に出て共同で田植えをやって協業・分業の力で適期に終わらせ、労力不足の解決と水稲単収の向上を図る、こういう水稲の「集団栽培」を組織化しようという動きが出てきたのである。
愛知県の安城がその先進的な事例として知られたのであるが、米どころの山形県庄内地方では今述べた集落単位の共同に加えて日本の水田に適合する国産中型トラクターの共同所有、耕起・代かきの共同化まで進めた。
こうした先進事例に学んで各地で「水稲集団栽培」の組織化(注)が進んだ。そして反収を上昇させ、また労働生産性を高めたのである。
こうしたさまざまな形での米の増産への取り組みを政府は積極的に支援した。増産は至上命令だったからである。
こうしたなかで生産量は60年代後半に消費量を追い越すまでになった。これは大きな成果だった。全国民が日本の農家の生産した米を食べられるようになったのである。これは史上初めてのことだった。
言うまでもなくこれはみんなで喜んでいいことだった。念願の米自給達成記念の祝日を設けてもいいほどだった。
しかしもう一方で、アメリカの小麦戦略は徐々にその効果をあげはじめ、さらに高度成長による所得増加は青果物、畜産物の需要を増やし、米の消費量は1962年をピークに減少し始めていた。そして米の過剰が問題となりつつあった。
それ以前に、農業生産においてはもちろんのこと国民生活にも不可欠だった稲わらが過剰になってきていた。米の副産物で農家はもちろん社会の必需品だった稲わらはすでに邪魔者扱いされるようになっていたのである。
(注)こうした農家の共同利用・共同作業組織を農基法農政は「協業組織」と呼び、「協業経営(=全面共同経営)」と並んでその組織化を推奨したのだが、後ほどまた触れたいと思っている。
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