【リレー談話室】COP26の残した課題 伊藤澄一 JCA客員研究員2021年12月7日
先月11月には、イギリスのグラスゴーで「国連気候変動枠組条約の締約国会議(COP26)」が開かれた。本紙9月10日号では、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が8月に公表した「第6次評価報告書=自然科学的根拠」の深刻さに触れ、COP26では「京都議定書」、「パリ協定」と並ぶ歴史的な合意があるだろうと期待を込めた。しかし、気候変動について科学が示した人間責任100%の評価結果にもかかわらず、COP26は大きな成果を出せなかった。EU・アメリカ、中国、インド、ロシア、日本、さらには途上国の足並みは各々の事情で整わなかった。
影響の大きい国々
世界のCO2排出割合(2018年)は、中国28.4%、アメリカ14.7%、インド6.9%、ロシア4.7%、日本3.2%、さらにブラジルは1.2%となっている。EUは全体で10%だ。これらの国で約7割だ。中国は14億人の人口を抱え経済発展のさなかにあって脱炭素の動きは鈍い。世界が2050年を目指すCO2実質ゼロ目標を2060年としている。
アメリカはパリ協定そのものへの不参加・参加を繰り返して不安定だ。インドはCOP26で強く石炭火力発電にこだわった。成果文書での「段階的な廃止」を「段階的な削減」へとトーンダウンさせ、ようやくCO2実質ゼロ目標を2070年と表明した。ロシアはあまり目立つことはなかった。温暖化でシベリアの永久凍土の融解が進み、CO2やメタンが放出されている。シベリアはロシアの面積の75%を占め、このままでは今世紀末には7割以上が溶けるとの恐い指摘もある。
日本は再生可能エネルギーにシフトしたいが、脱炭素と脱原発の二重苦を背負う。2030年に向けては再エネを18%目標から36~38%目標へと位置づけた。原発は現状の6%から20~22%目標のままで、火力発電は現状の76%から41%目標とする数字合わせとなっている。ブラジルは世界の熱帯雨林の30%(日本の面積の10倍近い)をもつが、森林伐採によりこの25年だけでも毎日2700haの熱帯雨林が失われ、すでに20%が消えた。すべての国が、固有の経済的な事情があって、COP26ではそれが表面に現れた。
いくつかの合意
あまり注目されていないが、低調なCOP26において、主催国のイギリスが一部の締約国の間でまとめた合意がある。それは、(1)「森林破壊阻止」共同宣言の発表だ。2030年までに世界110カ国がCO2を吸収する森林破壊を阻止し、荒廃した土地の回復に努めるものだ。日本、ロシアやブラジルなど宣言国で世界の森林面積の86%を占めるので、よい影響が期待できる。(2)さらに「メタン削減計画」の合意だ。世界のメタン排出量を2030年までに30%削減する計画に100以上の国々が参加を表明した。EU、アメリカ・ブラジル・インドネシアなどメタン排出上位国も参加(中国・ロシア・インドは不参加)する。日本も参加した。
メタンはCO2の25倍の温室効果をもつが、大気中では10年程度の寿命とされ、比較的短い。CO2換算では温室効果ガスの20%程度を占める。国連はメタン削減の効果は高く、成功すれば気温上昇を0.3℃抑制できるとしている。メタンはシベリアなどの永久凍土の融解や農業、廃棄物などに起因する。
世界の気温上昇を「1.5℃未満」とする目標は、締約国のギリギリの連帯目標だが、(1)、(2)は関わりの深い国々の自主的な積極目標であり、欧米主導による目標のブレイクダウン、「見える化」でもある。中国、ロシア、インドなどの主要国の参加を促して、あの手この手でやれることをやる、という動きだ。主催国イギリスは、パリ協定の枠組みを何とか維持した。
国連のグテーレス事務総長はポルトガル首相、国連難民高等弁務官を務めてのポストだ。彼は10月26日に「気候変動は大惨事に向かっている。COP26は最後のチャンスだ。各国の温暖化ガスの排出量は、指導者の力の差によって生じている」と明言した。これが世界197の国と地域によるCOP26の結論でもあった。
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