【熊野孝文・米マーケット情報】魚沼コシヒカリ独歩高はコロナ禍が要因か?2021年12月7日
コメ卸団体100%子会社クリスタルライスが12月2日に開催したFAX取引会では88産地銘柄14万7585俵もの売り物があった。前回10月の取引会に比べ売り物は142%にも増えた。売りもの中には魚沼コシヒカリも含まれており、売り唱え価格は2万2、800円から2万4600円であったが、なんと2万4300円で買われた。魚沼コシヒカリは3年産の出回り初期から一貫して値上がりしており、独歩高の様相を呈している。
魚沼コシヒカリに触れる前に集荷業者やコメ卸が現在や先行きの相場動向をどう見ているのか紹介したい。結論を先に言ってしまうと「かつてなく先行きが不透明」と言うことになってしまうが、それでは参考にならないので、まずは需給に重きを置いている向きの見方を紹介したい。需給見通しについては農水省や農業団体の見方に大きな開きがあるように組織によって見方が違って来る。紹介する事例はその一つである。
農水省の需給見通しは米穀年度を当該年の7月から翌年の6月末としているが、コメ業界では馴染みがある当該年の11月から翌年の10月末に直した米穀年度を使用しており、それによると令和4米穀年度(令和3年11月~令和4年10月)の需給見通しは、期初供給量は10月末在庫(2年産)が64万tで、これに3年産生産量701万tを加えた数量765万tになっている。これから年度内の需要量699万tを差し引くと来年10月末在庫は66万tになり、今年10月末の在庫よりも多く、一向に需給は改善しないということになってしまう。
ただ、新政権で15万tの特別枠対策が実施されることになったので、この15万tを「隔離」と見なせばこの分を差し引かなくてはならず、66万㌧マイナス15万tで年度末在庫は51万tに減ることになる。15万tを隔離と見なすか否かは置いておくとして、需給見通しを令和5年米穀年度まで見て行くと、期初供給量は特別枠15万tを除いた在庫51万tに農水省が示した4年産適正生産量675万tを加えると726万tになる。これから年度内需要量689万tと予測された数量を差し引くと令和5年10月末の在庫は37万tに減ると見込まれている。
37万tと言う在庫は、価格が上昇に転じた平成30年10月末の在庫とピッタリ同じ数量である。見方を変えれば需給を均衡させ価格を上昇させるため対策が「特別対策」であり、こうした需給見通しにするための数量であったとも言え、コロナ禍による需要減と言うのは後付けの理由に過ぎない。理屈はどうであれ、事実上の隔離対策が行われたことにより、市場が反応したことは事実で、クリスタルライスの売り唱え価格の4%値上がりして全銘柄の加重平均価格は60㎏当たり1万1,138円になった。
主だった各産地銘柄の価格がどうなっているのか参考までに示すと北海道ゆめぴりか1万2950円~1万4900円(関東着1等税別)、ななつぼし1万1400円~1万1900円、青森まっしぐら9600円~9950円、宮城ひとめぼれ1万650円~1万2600円、秋田あきたこまち1万1150円~1万2600円、山形つや姫1万7500円~1万8400円、はえぬき1万600円~1万1400円、福島中通りコシヒカリ1万100円~1万1400円、茨城コシヒカリ1万円~1万300円、栃木コシヒカリ1万円~1万1100円、埼玉彩のかがやき9050円~9500円、千葉コシヒカリ1万300円~1万550円、新潟一般コシヒカリ1万4400円~1万5300円と言った具合である。
こうして見ると嫌でも魚沼コシヒカリの高値が際立っていることが分かる。
産地銘柄別の価格差は需給が緩和すると広がり、タイト化すると縮小するという傾向がある。将来、自由で公平でオープンな現物市場が設立されればこうした産地銘柄別の価格形成の移動平均価格をデータ化することによってコメの需給均衡点がデータとして示せる時代が来ると予想されるが、その時でも現在の異例と言うべき魚沼コシヒカリの高騰に関心が持たれるだろう。
コメの階層別価格帯の中で最上級10%のプレミアム帯の中で不動の地位を築いているのは魚沼コシヒカリである。知る限りで最も高値で魚沼コシヒカリが納入されているのは量販店やネット販売ではなく、老人ホームで、そこには玄米60㎏換算で8万円で納入されていた時もあった。最もお米好きな世代が魚沼コシヒカリの高価格を支えているという事も出来る。その世代に及ばない著者にも株主優待で魚沼コシヒカリが贈られて来たが、うまいと思わざるを得なかった。
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