「新しい資本主義」の大局と小局【森島 賢・正義派の農政論】2021年12月27日
岸田文雄首相が、「新しい資本主義」なるものを政策の柱に据えた。その主な内容は、「分配を成長への道筋」として、「企業が賃上げをしようと思える雰囲気を醸成する」というものである。
これは、国家権力の経済への介入である。とうてい資本主義ではない。社会主義の方向へ向いている。社会主義でもいいから賃上げをしよう、あまりにも非道な低賃金だから是正しよう、というのだろう。そうして、格差を縮小しよう、というのだろう。
その心情には同感である。だが、低賃金は、雇用構造に原因するものである。この原因にまで遡って是正すべきである。
しかし、この政策は、目先の低賃金という小局だけに目を奪われて、雇用構造と、その土台にある経済構造、という大局を見ようとしない。資本主義は、生来、労賃を圧迫することを宿痾(しゅくあ)にした経済なのである。
それに加えて、この政策は、目的と手段の倒錯がある。経済成長のために分配を増やすのではない。経済政策の目的は、国民生活を豊かにするために、分配を増やすことである。成長は、そのための手段にすぎない。
こうした点に、この政策の危うさがある。この点を追及するのが、野党の役割である。野党に、その意気込みがあるか。
上の図は、政府資料による最近の雇用構造である。非正規雇用は、これほどまでに多くなっている。ことに女性の非正規雇用は、半数を超えている。ここに低賃金の原因がある。ここに国民を分断している原因がある。この大局を見て是正しないかぎり、低賃金は続く。分断も続く。だが首相は、この大局を見ようとしない。
だからといって、低賃金の是正を否定するわけではない。低賃金という火の粉は、振り払わねばならぬ。だが、これは局地戦であり、小局である。大局を見失ってはならぬ。
◇
大局は経済構造、ことに生産構造の改革にある。生産を私人に全面的に任せるのではなく、権力が介入することである。そうして、低賃金労働を根元から排除することである。
これは、社会主義だ。だが、社会主義政策に全面的に転換せよ、というのではない。社会主義といっても、生産の全てを私人に認めないというものではない。その反対に、資本主義といっても、生産の全てを私人に認めるというものでもない。
この点で、野党も首相に同意する点があるだろう。ここを最前線にして、激しい局地戦がくり広げられるだろう。そのなかで、首相が賃上げを約束したのである。これは弱者の勝利であり、野党にとって、局地戦という小局での勝利である。
◇
ここで注意しておくべきことは、大局を見失わぬことである。小局での勝利を、さらに前進させることである。大局とは、労働戦線での全面的な勝利である。そして、経済構造の大胆な革新である。
それは、生産場面にまで遡る労働規制の強化であり、最低賃金の大幅な引き上げである。政策をその方向に向かわせることである。
一部の野党は、「対案路線」といっているが、どんな大局観のもとでの「対案」なのか。それが見えないと、第二自民と揶揄(やゆ)されるだけだ。自民の土俵に上がって、資本主義、反社会主義を堅持する自民に力をかす「対案」か。格差を宿痾にする資本主義を延命するための「対案」か。弱者を痛めつける政策を容認する「対案」か。それとも、それらを否定する、という大局観に立った政策の提示か。
その攻防は、新年からの主戦場になるし、コロナ後も続くだろう。国民は、この攻防を、この視点で厳しく監視している。
(2021.12.27)
(前回 来年は参院選だ)
(前々回 ワクチン情報の隠蔽)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 石川県2025年7月4日
-
(442)エーカレッジ(作付面積)から見る変化【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月4日
-
【JA人事】JAながさき県央(長崎県)里山耕治組合長を再任(6月27日)2025年7月4日
-
人的資本を人事制度で具体化する 「令和7年度 人事制度改善セミナー」開催 JA全中2025年7月4日
-
「有機薄膜太陽電池」で発電した電力 ブドウの着色に活用 実証実験開始 山梨県2025年7月4日
-
株主優待制度を新設 農業総研2025年7月4日
-
夏の訪れ告げる初競りの早生桃 福島県産「はつひめ」販売 青木フルーツ2025年7月4日
-
ニッテン「スズラン印」ロゴマークをリニューアル 日本甜菜製糖2025年7月4日
-
「国際協同組合年」認知度調査「生協に参加したい」が7割 パルシステム2025年7月4日
-
洋菓子のコロンバン主催「全国いちご選手権」あまりんが4連覇達成2025年7月4日
-
野菜わなげや野菜つり 遊んで学ぶ「おいしいこども縁日」道の駅とよはしで開催2025年7月4日
-
北海道初進出「北海道伊達生産センター」完成 村上農園2025年7月4日
-
震災乗り越え健康な親鶏を飼育 宮城のたまご生産を利用者が監査 パルシステム東京2025年7月4日
-
神奈川県職員採用「農政技術(森林)経験者」受験申し込み受付中2025年7月4日
-
神奈川県職員採用「獣医師(家畜保健衛生分野)経験者」受験申し込み受付中2025年7月4日
-
信州の味が集結 JA全農長野×ファミマ共同開発商品 長野県知事に紹介2025年7月4日
-
障害者のやりがい・働きがい・生きがい「ガチャタマ」で応援 パルシステム埼玉2025年7月4日
-
参議院選挙に行ってとんかつ割引「選挙割り」実施 平田牧場2025年7月4日
-
作物と微生物の多様な共生が拓く農業の未来 意見論文が米国植物科学誌に掲載 国際農研2025年7月4日
-
国産率100%肥料の商品を販売開始 グリーンコープ共同体2025年7月4日