(264)15年先を見た「仕込み」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年1月7日
2022年、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。さて、勤務先の大学でも講義が始まっています。昨日は県内の農業大学校で講義をしてきました。そこで年始に話した内容から少々お伝えしたいと思います。
ひと昔前にはグローバルかローカルかというような二者択一的議論があったが、そうしたわかりやすい区分けを提起する人や組織には十分に注意する必要がある。教室内での議論では、ある問題について「賛成」か「反対」か、どちらかの態度を示すことが立場を明確にし、進行を促す上では有益だが、現実社会の問題解決には役立たないことは社会人の多くが既に知っている。
二者択一的な思考はいわば「or」の思考だが、世の中は「and」で構成されていることが圧倒的に多い。食事を例にして考えてみたい。和食か洋食か、肉か魚か、ご飯かパンか、...いずれも長年にわたり議論されてきたわかりやすい例である。実際の我々の食生活を見れば、「絶対に片方のみ!」という方もいるが、恐らく圧倒的多数は「適度に両方」を楽しんでいるのではないだろうか。
少し固い話をすれば、主義主張や思想もこれに近い。筆者たちの学生時代には資本主義か共産主義か、などという議論を先輩達からよく仕掛けられたが、当時の筆者には論理は理解できても感情面でどうしても納得できない点が多々存在したことが記憶にある。現実社会を見れば、ひとりひとり異なる人間を全て同一の工業製品のように扱うことには心底抵抗がある。その一方で勝者が全てを奪い取り敗者が全てを失う世界も行き過ぎではないかという中途半端な感情は、当時の「先端的な」方々からはどうにも煮え切らない人間と見なされたようである。
年初の講義でなぜか当時を思い出しながら20歳前後の学生たちを前に少し雑談をした。
健康状態はもちろん人により異なるが、現在のわが国では65-74歳が前期高齢者、75歳以上が後期高齢者である。そして、もうしばらくすると、本年2月1日時点の調査結果が出るが、とりあえず2021年2月1日時点の数字を見ると、年齢別の基幹的農業従事者数は全国で130万2千人と判明している。このうち前期高齢者は49万5千人、後期高齢者は41万人であり、合計90万5千人は全体の69.5%を占めている。
東北地方全体では23万2千人の基幹的農業従事者がいるが、前期高齢者が9万8千人、後期高齢者が6万7千人で、合計16万5千人は全体の71.1%である。同じようなことを宮城県についても話した次第である。
20歳前後の学生たちにとって、20年先の未来をイメージすることはおろか、数年先ですらなかなか想定が難しいことを踏まえた上で、あえて15年程度先を具体的に考えてほしいことを伝えた。一気に15年先は難しくても、その期間を5年ごとに分け、最初の5年、次の5年、そして最後の5年...といった感じで考えて見たら良い。
理由は明確である。普通に考えれば、現在75歳の方は15年先には90歳になる。世の中にはもちろん90歳以上で元気な方も多数いるが、そうでない方も多い。自分の県内の基幹的農業従事者のうち、後期高齢者に相当する方の大半が15年先、つまり現在の学生たちが30代半ばになる頃には現場から退き、さらにそれから10年経てば現在の65歳以上の方、つまり全体の7割が農業現場からいなくなる...という現実をしっかりとみつめて欲しい...とのメッセージである。
もちろん今後も一定の新規参入者は全世代でいるだろうが、それほど多くはない。そうなると、どう考えても今後15年から20年程度以降先の将来は、現在の3分の1の労力で農業をやっていかなければならない。女性・高齢者・外国人を活用して補うにしても一定の限界が生じるであろう。
だが、これは単純に考えれば、日本農業のこれまでの仕組みを再考し、少人数かつ合理的な仕組みを構築する良い機会ともとらえることが出来る。ぜひとも、15年先を見据えて各々の立場でさまざまな仕込みをして欲しい...、と、こんな感じである。
* *
筆者自身の15年先は生きていれば後期高齢者、80歳手前です。そこまで動けるかどうかは全くわかりませんが、それでもいろいろな「仕込み」を考えないといけない時期になってきました。皆様にとって、良い1年となりますことをお祈り致します。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
【石破首相退陣に思う】戦後80年の歴史認識 最後に示せ 社民党党首 福島みずほ参議院議員2025年9月16日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(6)2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
「JA共済アプリ」が国際的デザイン賞「Red Dot Design Award2025」受賞 国内の共済団体・保険会社として初 JA共済連2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
公式キャラ「トゥンクトゥンク」が大阪万博「ミャクミャク」と初コラボ商品 国際園芸博覧会協会2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日