国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
出回りはじめから一本調子で値上がりしてきた7年産米のスポット取引価格が先週後半に反落した。値下がりした要因について市中では東北や北海道でも新米の刈取りが始まり、一部産地で安値の売り物が出てきたことで、すでに出回っている関東玉などが居所修正されたといった見方もあるが、最大の要因として、量販店等での新米の売れ行きが芳しくないことが上げられている。それに加え、農水省サイドからコメ需給見通しについて来年6月末の民間在庫が200万tを大幅に超え、需給緩和の恐れがあるというような情報が発信され、一種プロパガンダ的様相が加わっていることも要因の一つにあげられる。
小泉農相は9月9日の閣議後の定例記者会見でコメの需給について「このままもしも(7年産米)50万t近く増えて出てくれば、これは相当な在庫水準の積み上がりになりますので、直近10年程度で最も在庫水準が高かった平成27年の226万tに匹敵する水準となると、これをそのまま受け止めれば、量としては間違いなく不足ではなくて、むしろ過去最高水準でありますので、価格は落ち着くと見るのが普通のことだと思います」と述べている。7年産米が50万t近く増えるというのは、統計部が先月末に発表した7年産主食用生産量予想を基にしているのだが、果たして本当に主食用米の生産量がそれだけ増えるのだろうか?6年産米でも主食用米の価格が上昇して、飼料用米や加工用米など転作作物から主食用米に転換される面積が増え、主食用米の生産量が増加するものと見込まれていたが、実際には飼料用米や加工用米等の作付面積が減った分の半分しか主食用米の作付面積は増えなかったのである。このことがその後のコメ不足騒動の原因にもなっており、なぜ主食用米の作付けが増えなかったのかその原因を掘り下げるべきで、それなくして令和のコメ騒動の終わりはない。
6年産米の統計については、原因を究明しなくてはならないことがまだある。それは生産量と検査数量に整合性が見られないことである。6年産主食用米の生産量は、作付面積が5年産に比べ1万7000ha増えたこともあって生産量は679万2000tになった。5年産に比べると18万2000t多かった。ところが水稲うるち米の検査数量は3月末時点で406万1700tまでしか積み上がらず、5年産米の同時期に比べ7万5300t少ないのである。生産量が増えたのに検査数量は減ってしまったのである。こうしたことがあり得るだろうか?ちなみに家庭用精米の全国広域銘柄の新潟コシヒカリの検査数量は、5年産は27万4591tであったが6年産はそれよりも2万2355t少ない25万2236tまでしか積み上がっていないのである。前回のコラムで「あるはずのコメがない」と指摘したのはこうしたことを指している。特に新潟コシヒカリのような量販店で販売される家庭用精米は「年産・産地・銘柄」の3点セット表示が不可欠で、これは検査しなければ表示が担保されない。
これまで7年産米が出回り期から右肩上がりで値上がりした要因としては、コシヒカリやあきたこまちと言った家庭用精米を量販店等に納入しなけなければならない卸等流通業者が必要量を確保すべく買いに走ったということが最も大きな要因と考えられる。買いに走らなければならなかった理由は必要とする産地銘柄米がいつ無くなるのかわからないという心理的作用が働いたというしかない。その心理状態に歯止めをかけたのが新米の売れ行き不振の現状である。いち早く庭先価格がヒートアップした関東の早場県の集荷業者や卸はいずれも口を揃えて引取りペースが急激に遅くなっているとしており、この現象は昨年同時期と明らかに違うという。昨年の同時期は、新米は出始めから右から左へ動き、取引価格も右肩上がりになったが、7年産米は末端の売れ行き不振から急ブレーキがかかったような状況になっているという。
メディアでは、農水省が今年度年間の需要量見通しを前年度に比べ38万t増えるという試算を行っていると大きく報じているが、再三指摘しているように需給がひっ迫したのは需要が増えたからではなく、そもそも生産数量が農水省が公表したほどの量がなかったことにあると見るのが自然だ。このことは、今後、行なわれるであろうコメ政策の見直しで根本的なテーマになり、生産調整を廃止して増産に舵を切るというのなら、まず「コメの生産力」がいくらあるのかしっかり検証して対策を立てなければ食料確保の安心は保てない。さらにコメの増産政策を強く打ち出し、行程を示さなければコメ不足が解消しないばかりかコメ産業化への道筋も描けない。
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