なぜ先物市場の価格は市中価格とリンクしないのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年11月4日
先物清算取引市場の重要な機能として「価格平準化機能」がある。先物清算取引市場があることによって、価格の乱高下を防ぎ、平準化する機能が発揮される。このことは先物清算取引市場の仕組みを知れば容易に理解できる。ところが堂島取引所のコメ指数先物取引では10月31日に最終決済日を迎えた10月限は前日に比べ60kg当たり1990円も値上がりして4万0570円になってしまった。

現物市場のスポット価格が値下がりしているのにも関わらず真逆の動きをしており、現物市場と先物市場の価格が最終的に収斂するという動きになっていない。これでは先物清算市場の最も重要な機能である価格のリスクヘッジ機能が果たせなくなってしまう。
その最大の原因は、堂島取のコメ先物取引は指数取引であるがゆえに現物の受け渡しが出来ないことにある。
堂島取引所の10月限の取引が始まったのは昨年11月1日で、始値は2万2000円でそれ以降ほぼ右肩上がりで、今年に入って値上がりが著しくなり、特に10月に入ってから連続してストップ高を付けるなどで10月31日の最終決済日には4万円を超えてしまった。
10月限の価格が大幅に値上がり始めたのは農水省が公表する相対価格が急激に値上がりしてしまったことが最大の原因。
農水省は10月21日に9月の相対取引価格を公表した。そこには「令和7年産米の令和7年9月の相対取引価格は、概算金が昨年より3割から7割程度高い価格で設定されていることなどを受け、対前年同月+14,195円(+63%)の全銘柄平均36,895円/玄米60kg」になったと記されている。
昨年同月の相対価格というのは6年産米の出回り初期の相対価格で2万2700円であった。6年産米はその後値上がりし続けて今年の8月には2万7179円になったが、それが9月には3万6895円といきなり9716円、36%も値上がりしてしまった。これは相対価格の調査対象が6年産から7年産米に切り替わり、しかも全農から卸に販売する契約価格が用いられたことにより、これほどまでの価格急騰になったのであり、堂島取の売買対象商品である「堂島コメ平均」が農水省が公表する相対取引価格を主な要素として指数化したものを最終決済価格として採用している以上、この価格に従うしかない。
では、現物市場はどうかというと10月30日にクリスタルライスが取引会を開催し、そこでは101産地銘柄36万1244俵もの売り物が提示された。これらの売り物の加重平均価格は60kg当たり3万3334円で、前回10月2日の取引会に比べ1784円も値下がりしている。これだけ値下がりしても実際に成約したのは1割程度しかなかった。
7年産米の価格上昇でプライスリーダー的な役割を果たしていた新潟コシヒカリの売り唱え価格は東京持込みで3万3900円というものも出ており、全農相対価格より大幅に安い。玄米卸によると新潟の集荷業者の中には3万3000円でも売りに応じて来るところがあるとのことで、出回り当初に「売るものがない」と産地業者から言われたのは何だったのかと言うほどになっている。
新潟コシヒカリがこれほどまでに値下がりしているのだから雑銘柄いわゆるBランクのコメは3万円を割り込んでいるものもある。
堂島取引所のコメ先物取引で納会日10月31日に現物の受け渡しが出来るようになっていれば、売人はクリスタルライスで3万円割れのBランク米を買って渡せばよい。その結果、先物市場と現物市場の価格が最終的に収斂するということになる。
堂島取引所は納会日ではなく、それ以前に先物取引市場で売り建て玉を持つ当業者と買い建て玉を持つ当業者は合意すれば現物の受け渡しが出来る合意受渡し制度の導入を検討しているが、これはあくまでも売人、買い人の合意の上で成立する受渡制度であり、これを導入しても先物価格と現物価格が最終的に収斂するということにはならない。
やはり先物市場の価格と現物市場の価格が収斂するようにするためには当限納会で現物の受け渡しが出来るようにするしかない。そうすることによって現物市場の相場が先物市場の期近限月の価格に反映される。そうなるようにするためにはクリスタルライスを全米販の子会社から独立した組織にしたうえで、堂島取が資本参加して「指定現物市場」にする。
すでに堂島取が資本参加しているみらい米市場は付加価値米の取引に特化して、こだわり米の現物価格形成市場の役割りを担い、堂島取で受け渡しされる一般米はクリスタルライスが担い、受け渡しをスムーズにするために堂島取が指定した倉庫が倉荷証券を発券するようにすれば証券での受け渡しが可能になり、生産者や農協、卸、外食事業者等当業者にとって利便性が格段に増した市場にすることが出来るのである。
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