コメ加工業界を慌てさせたMA米売却価格の急騰【熊野孝文・米マーケット情報】2022年1月11日
1月6日に東京都千代田区で開催された全国米穀工業協同組合の新年最初の会議に農水省生産局の担当官が訪れ「国産農林水産物等販路新規開拓緊急対策事業」の説明がなされた。コロナ禍で需要が落ち込んだ分の支援対策で200億円の予算が付いているのでコメ業界の関心も高い。説明後の質疑応答で出席者から「MA米から特定米に振り替えた分についても支援の対象になるのか?」という質問があり、これに対して農水省の担当者は「なる」と答えた。
緊急対策事業の内容は全国会議でも説明されているので、それについては後述するとして、全米工の会議でMA米についてなぜ質問が出たのかと言うと、加工業界向けに売却されるMA米の価格が大幅に値上がりしたことに一因がある。昨年12月17日に加工業界向け長期販売分(4年1月~3月)の入札が行われたが、米国産うるち精米の落札価格は前回に比べトン当たり2万2000円値上がりして14万9000円に跳ね上がった。昨年1年間の長期販売分の落札価格の推移は3年1月~3月12万5600円、4月~6月12万5500円、7月~9月12万7200円、10月~12月12万7000円であった。それがいきなり2万2000円も値上がりするのだからコメ加工業界が慌てるのも無理はない。農水省は米国産うるち精米の売却価格を値上げした理由について第一に現地価格が高騰していることをあげる。具体的には2022年産の米国産中粒種は作付面積の減少に加え、干ばつ等の気象要因も加わり生産量が前年度に比べ2割減少したことや米国国内の需要増もあり、輸出価格が急騰、直近ではFOB価格がトン1200㌦に跳ね上がり、日本の輸入価格もトン16万円近くになっている。このため次回4月~6月分の売却価格はさらに値上がりするものと予測されている。
コメ加工食品業界の業種別でMAうるち米の買い受け量が多いのはみそ5万t、米菓3万t、焼酎2万t、米穀粉2万tとなっている。これらの業種は中小企業が多く、組合を通じてMA米を確保しているところが多い。中でも味噌業界はその割合が高い。全国味噌工業協同組合連合会(全味連)の直近の買受実績は、3年1月~3月が4,095t、4月~6月が4,008t、7月~9月が3,133tとなっている。大手みそメーカーは独自にMA米を買受けているが、この価格が値上がりすると割安な国産特定米穀にシフトする。その分岐点になる価格はkg120円で、価格によりMA米か特定米穀かの使用割合は劇的に変化する。みそ業界は年間約8万tの原料米を使用するが、国内産米と外国産米の割合は国産米が高いと国産米3万tに対して外国産米5万tという割合になるが、国産米が値下がりするとその割合が反転するという特徴がある。そうなる理由はみそには原料米の国産、外国産米の表示義務がないことと大手ほど製造技術が進み、原料米の振り替えが可能になっていることがあげられる。ただし、小規模メーカーはそうそう簡単に原料米の振り替えは簡単ではない。間の悪いことに今年4月からは原料米の表示義務が課せられることになっており、4月からの原料米手当てをどうするのか小規模メーカーにとっては頭の痛い問題になっている。すでにコメと並ぶ主原料である大豆の価格も値上がりしているほか、製造に要するあらゆるものが値上がりしている状況で、4月からさらにMA米の売却価格が値上がりするようであれば死活問題になりかねない。
冒頭に記したように国の緊急対策事業で価格が値上がりするMA米から価格の安い特定米穀へ振り替えることが出来れば中小メーカーにとっては朗報だが、支援を受けるには要件がある。「コロナ禍の影響により、令和元年以前の過去5年のうち最高と最低を除いた3年の平均値に比べ(1)在庫量が2割以上増加していること(2)価格が2割以上低下していること(3)販売量が2割以上減少していること(4)販売額が2割以上低下していること」――を客観的に証明しなければならない。単に安い原料米を使用したいので支援を受けたいと申請しても採択されない。
しかし、視点を広げて国産農畜産物需要拡大という趣旨であればMA米の使用を止めて国産加工用米や特定米穀を使用するというのはこの趣旨に沿っているのではないか。以前、甘酒事業に進出した大手味噌メーカーの社長が農水省の事務次官に「甘酒の原料米を米粉用米と同様に認定して欲しい」と直談判したが、粉になっていなかったためかそれは認められなかった。しかし今回は緊急対策なので文字通りそんな細かいことは言わずに支援できるようになれば「国産原料のみそ輸出」にも弾みが付くのではないか。
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