1割減反と米どころの対応【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第180回2022年1月20日
全国の稲作農家が何とも落ち着かない気分で過ごした1970(昭45)年の正月明け、政府は米の生産調整の目標数量を各県に示した。この米の1割減反(作付面積を1割減らすこと)の話は前年から出ていたのだが、それが農村に現実のものとなって襲ってきたのである。
それにどう農家は対応したのか。稲作にとくに力を注いできた東北地方を例にしてみてみよう。
まずいわゆる米どころと言われた地域だが、農家は減反に猛反対した。増産、開田と米に力を注いできたのに、そして国もそれを推奨したのに、先祖代々営々と維持してきた田んぼを荒らせ、カネはやるからともかく米をつくるなというのは、一寸の土地を惜しみ、一粒の米を大事にする農家の肌身に染みついている心情からして許せなかったのである。
しかも、過剰をもたらした原因は農家にはなく、政治にあった。アメリカ農産物の輸入が米以外のものをつくれなくさせ、米に集中せざるを得なくさせて米の供給を否応なしに増やさせ、また消費構造を変化させて米の需要を減らしたもので、まさに『食卓のかげに星条旗』があったのである。政治的に引き起こされた問題は政治的に解決すべきであり、農家に責任を負わせるのは筋違いである。
米に大きく依存していた東北地方の農協も当然のことながら強く反対した。とくに生産調整の条件が不明確であること、全国一律に減反するのは東北の主産地という特殊性を無視していることを強調した。この要求は若干満たされた。減反奨励金がアップし、1割の目標が東北の場合7%に下がったのである。その時点で農協県連は態度を変え、やむを得ず協力するということになった。そして単協を説得した。米が余っている現状に目を覆うわけにいかない、余った米を大量に抱えると食糧管理制度は赤字で崩壊し、価格保証ができなくなる、食管を守るためにも減反しよう、このように全国段階で申し合わせたのだから了承してもらいたいと単協組合長会議で説得した。それで多くの単協は協力するようになった。ただし達成の責任は行政が負うべきであるとした。
一方自治体は、当初は積極的に減反を支持することなく、静観の態度をとった。
これに対して政府は、協力しなければ報復措置があると脅す等、あらゆる手段を用いて減反目標の達成をせまった。
それで自治体も「避けて通れない」として協力するようになった。そして、これまで増産、安定多収のために努力してきた普及員、県や市町村の職員が、わずか一年前とまったく逆に米をやめろと言って歩かされた。この苦しみ、悩みを何人かの人から聞かされたものだった。
やがて東北の農民のなかからこんな言葉がささやかれるようになった。
「減反に協力すれば自殺で、協力しなければ他殺だ」
そして宮城県の開田農家の一人はこう言って自殺した。
「殺されるのを待つより自分で死んだ方がいい」
しかし、ほとんどの農家は口をつぐんだ。そしてまわりを見回していた。
70年の農村の正月は異様に静かだった。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
最新の記事
-
鳥インフル発生農場 3割超の28農場で経営再開 採卵鶏農場で新たに238万羽導入 鶏卵不足解消へ期待2023年6月8日
-
JA全中 次期会長選出へきょうから立候補受け付け 7月4日に「新会長推薦者」決定へ2023年6月8日
-
基本法見直しの検討加速化を 食料安保強化など盛り込む 政府の「骨太の方針」原案2023年6月8日
-
養蚕の壊滅【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第242回2023年6月8日
-
JA鳥取西部とコラボ「大山ブロッコリー」使用うどんパスタ新発売 ファンデリー2023年6月8日
-
新農業者スタートダッシュ研修 開講 AFJ日本農業経営大学校2023年6月8日
-
兵庫県産「スイートモーニング」先着100箱限定・早割価格で販売 JAタウン2023年6月8日
-
日本一の生物多様性保全活動を選ぶ「日本自然保護大賞2023」募集開始2023年6月8日
-
憧れ、敬慕が花言葉「父の日」のお祝いは「黄色いひまわり」で タキイ種苗2023年6月8日
-
スマホ用アプリ「レイミーのAI病害虫雑草診断」機能追加 日本農薬2023年6月8日
-
「SL銀河」岩手の純米大吟醸「日本酒ICHI-GO-CAN」限定1500本を追加販売 Agnavi2023年6月8日
-
鳥インフル 米コネチカット州など4州からの生きた家きん、家きん肉等の一時輸入停止措置を解除 農水省2023年6月8日
-
中古農業用ハウスの価格評価サービス提供開始 事業性評価研究所2023年6月8日
-
新潟県十日町のサルナシとホーリーバジル使用「十日町ハーバルソーダ」新発売2023年6月8日
-
初夏の風物詩「梅しごと」足立区の保育施設で体験教室実施 パルシステム東京2023年6月8日
-
旬のレタスを40g増量「カットレタス」期間限定で発売 サラダクラブ2023年6月8日
-
埼玉県「令和5年度埼玉農業大賞」募集 優れた農業を営む農業者など表彰2023年6月8日
-
「みどりの普及推進活動」で環境大臣表彰を受賞 コメリ2023年6月8日
-
6月「食育月間」で親子向け食育イベント実施 東京都町田市2023年6月8日
-
1年育成フェザー苗でリンゴの高密植栽培 開発成果を紹介 生研支援センター2023年6月8日