世界を揺るがした食糧危機・石油危機【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第185回2022年2月24日

ニクソンショックもおさまり、第1次生産調整も終わりを迎えるころの1973(昭48)年から74(昭49)年にかけて世界的な異常気象が襲った。農作物は大きな被害を受け、穀物の国際価格は異常に高騰する、アメリカは大豆の輸出を禁止する、買い占めが横行する等々で、世界はいわゆる「食糧危機」に陥った。
その価格高騰に拍車をかけたのが、同じ73年の第四次中東戦争に伴うアラブの石油輸出国によるイスラエル支持国への輸出禁止、その結果としての原油の供給逼迫および価格高騰、それに伴う諸物価の急上昇、それに拍車をかけた商社等の買い占め・売り惜しみで激しいインフレが起こり、世界経済全体が大きな混乱に陥った。そしてそれはオイルショック=「石油危機」とも呼ばれた。
当然のことながら、穀物をアメリカに依存し、エネルギーを石油メジャーに依存しているわが国はこの食糧・石油危機で大きな打撃を受けた。
アメリカの大豆輸出禁止・価格暴騰で豆腐は連日のように値上がりして短期間のうちに2倍近くにはね上がり、トイレットペーパーが手に入らなくなるかもしれないと消費者がスーパーに買い占めに走るなど、「狂乱物価」と言われた年率2割という異常な物価高騰が2年も続き、消費者は大パニックにおちいったのである。
農業生産にも大きな影響を及ぼした。肥料価格は急騰、畜産農家は飼料価格上昇で打撃を受け、それどころか飼料がこないために餓死寸前に追い込まれた豚や鶏もいた。
しかし、かつての米騒動のような事態は起きなかった。米だけは自給しており、食管制度で消費者米価の暴騰は抑えられており、ともかくみんな食えたからである。
この食糧危機の影響もあって減反目標はさらに少なくなり、達成の圧力も弱まってきた。また、諸物価高騰の影響もあり、生産者米価はふたたび上昇に転じた。
そして国民はまた改めて食料自給の重要性を認識し、農家は輸入資材になるべく依存しない生産体制の構築を考えるようになった。
英独仏等の諸国は、73~74年の食糧危機を契機にさらに自給率向上に力を注ぎ、輸出余力ができるほどに生産を増強し、その結果としての過剰を各国は生産調整ばかりでなく輸出でもって処理しようとした。そのために輸出補助金までつけた。
しかしわが国の政財界は石油や食料の備蓄の必要性を言うだけ、国民も喉もと過ぎれば熱さを忘れてしまうのたが。そしてそれが第二次減反を必要とさせるようになり、また混乱を引き起こすのだが、これはまた後の話としよう。
ちょっと話を現在に戻らせていただきたい。
昨2021(令3)年から原油、ガソリンの価格が世界的に高騰、わが国も同様で、それにともない飼料、肥料、光熱・動力の価格が高騰した。いま述べた第一次オイルショック時とは比較にならないほどスケールは小さいが、それと類似した状況になっている。
しかしあの当時と違って農産物の価格指数は上がらない、それどころか下がっており、生産者米価などは1万円近くにまで下がる始末だ(新型コロナの影響もあるようだが)。
そうではあるけれども、この事態は半世紀前・1970年代のオイルショック、食料危機の時に国民の感じた輸入食料依存の危険性、それを解決するための食料自給、生産体制がいまだに構築されていないことを示すものであることはいうまでもない。
となれば、改めてエネルギー問題、地球環境問題とも関連させながらその解決方向を考え、食糧自給率の向上に取り組むべきだということになる。
しかしこの一カ月、マスコミの話はコロナと冬期五輪に集中、ガソリン価格の高騰は問題にしても食糧・農業問題を取り上げようとしない、あのときとは物価上昇のレペルが違うのだからそれもそうだろうとは思うのだが、それにしてもとついつい思ってしまう、世の中変わったものだ、困ったものだ(時代遅れの年寄りのたわ言かな)。
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