増収意欲の復活とうまい米づくり【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第186回2022年3月3日
1973~74年の世界的な食糧危機のころ、わが国の米の過剰問題は解決した。それで減反は約束通り終わり、米の作付面積は復活した。また、諸物価高騰の影響もあって米価はふたたび上昇に転じた。こうしたなかで農家の増収意欲はさらに高まった。その結果が1975年の史上最高の豊作であった。それでも米はまだ不足していた。
増収ばかりでなく「うまい米づくり」にも力を入れるようになった。69年から自主流通米制度が取り入れられ、いわゆるうまい米でないと高く売れないという状況が出てきたからである。当時うまい米として評価されていたのはコシヒカリとササニシキだった。
当時ササニシキはコシヒカリ以上に人気が高かった。ササの産地である宮城仙北の農協幹部に「自主流通米の売れゆきからみて政府に頼らなくとも農協単独で米を売りさばく自信がある」と言わせ、米穀集荷業者の激しい買いあさりぶりから「つくればつくるほど売れる」と宮城の農家に言わせ、さらに庄内の農民に「食管がはずれても庄内米の名声は生き残る、食管以後をきりぬける自信がある」とすら言わせたほどであった。
しかし、東北北部・北海道・山間部はこうした「うまい米」が当時はつくれなかった。
全国の青年のある集まりでうまい米地帯の青年がこう発言した。
「北海道や青森のようなまずい米の地帯は米をやめろ、減反はそういうところですべてやれ、適地適産で行こう」
そしたら北海道の青年が次のように答えた。
「うん、それはいい考えだ、おっしゃる通りにこちらは米をやめよう、そのかわりに内地は酪農をやめてくれ、適地適産なら北海道に酪農はすべてまかせるべきだ」
うまい米地帯の青年はぐうの音も出なかったという。
ある調査で青森県津軽地方の農家のお宅におじゃましたときのことである、調査も終わり、お茶をご馳走になりながら雑談していたとき、私にこう言って怒っていた。
「米にはうまいまずいなどというのはない、うまい米とは商人にとってのうまい米、商人にうま味のある米のことなのだ、それにだまされて青森の米はまずいと悪口をいうササニシキ地帯の農家はけしからん」。
その夜、その農家の方といっしょに飲んだ。いいあんばいに酒がまわったころ、「川を挟んだ隣の集落の米はまずい、この地域で一番うまいのはうちの集落の土地でとれた米だ」と、大声で自慢する。
うまい米などはないといいながら、あるとも言う。これは矛盾している。しかし両方とも正しい。ササニシキが後にだめになったのは商人にうま味がなくなったからだったし、やっぱり土や気象、品種によって味の差はあるものだからである。
こうしたなかで各県の試験研究機関は食味のいい品種の開発とその普及に力を入れることになった。品種改良は増収から良質へと大きく転換し始めたのである。宮城でも弱点の多いササニシキをこえる品種の開発に取り組み始めた。しかしそんなに簡単に改良品種がつくれるわけはない。各県の試験場の研究者にとってはまさに苦難の年月が続くことになる。
もう一方で稲作の機械化が大きく進展した。70年代は中型機械化一貫体系の確立の年代、我が国の稲作史をかざる年代でもあったのである。
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