農林漁業が隠岐ジオパークを守る【小松泰信・地方の眼力】2022年3月16日
3月13日に島根県隠岐(おき)郡隠岐の島町の民主団体が主催する講演会に招かれた。言うまでもなく、隠岐の島は離島。

離島への若き日の思いを反省
外周0.1km以上の合計6,848島に北海道、本州、四国、九州の4島を加えた6,852島が日本の島の合計。
最も多いのが長崎県で971。第2位が鹿児島県の605。長崎県の多さは突出している。島根県は369で第4位。
長崎市生まれの当コラム、高校には五島列島や対馬から来た生徒が多数いた。県庁所在地に生まれ育った者が、まったく根拠のない優越感から、彼ら彼女らに接していたことを決して否定しない。東京や大阪に出れば、「西の果て長崎の田舎者」と、上から目線で見られるということも知らずに。
そんな若き日の反省の気持ちも込めて引き受けた。はじめての隠岐、土地勘を得るため、10日から隠岐諸島4島を訪れた。
隠岐諸島は、島根半島の北方約50 kmに位置する島々で、島後(どうご)水道を境に島前(どうぜん)と島後に分けられる。島前は「島前3島」と呼ばれる知夫里(ちぶり)島(知夫村・ちぶむら)、中ノ島(海士町・あまちょう)、西ノ島(西ノ島町)から構成される群島である。これに対し、島後は1島(隠岐の島町)のみである。隠岐諸島の人口は約2万人弱で、管轄する隠岐支庁の所在地は隠岐の島町である。
多面的機能と隠岐ジオパーク
主催者からいただいた演題は「農林漁業は島の宝ー第1次産業の多面的機能を見直そうー」。
講演で重宝しているのが、数年前まで『食料・農業・農村白書』に掲載されていた、「農業・森林・水産業の多面的機能」とタイトルが付された図。
山から海までを描いた図に、「地球環境保全機能」「水源涵養機能」「生物多様性保全機能」などからはじまって、「良好な景観の形成機能」「文化の伝承機能」「気候緩和機能」、そして「海域環境保全機能」「伝統漁法等の伝統的文化を継承する機能」「海域環境の保全やモニタリング機能」さらには「国境監視機能」等々の多面的機能が付置されている。
参加者からは、「この図は隠岐のことを書いたものかと思った」との声が聞かれたが、それ以上のスケールで紹介されねばならないのが隠岐諸島。
それを端的に言い表しているのが「ジオパーク(Geo+Park;地球の公園。地球を知ることができる場所)」である。
2013年9月に、隠岐諸島および海岸から1kmの海域を合わせた、673.5 km2の範囲が「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」(隠岐ジオパーク)として世界ジオパークネットワークに認定されている。
ガイドマップには、「独特の地質を持ち、日本海に囲まれた環境ならではの地形があります。そこには離島の暮らしや景観、自然があり、離島だからこそ、それらの間のつながりが見やすくなっています」と記されている。
離島におけるコスト問題
このジオパークを、守り続けるためには、多面的機能を創出する、環境と調和した農林漁業の持続的営みが必要となる。しかし、第1次産業の持続は容易ではない。
例えば、隠岐島後森林組合では、本土への木材の輸送費が高く、「高値を付ける市場があってもそこまで運べない」という問題点が強調された。
2018年度に島根県が実施した、隠岐地域における物価・物流に関する実態調査によれば、隠岐地域の物価は、本土(松江市)と比較すると、2割程度割高である。
確かに滞在期間中、いろいろな商品が本土並みかそれ以上の価格であることを知った。その原因のひとつが輸送コストである。
「有人国境離島法」の貢献と不可欠な延長と充実
その輸送コスト問題を軽減するために注目したいのが、2016年4月、議員立法で成立した、いわゆる「有人国境離島法」。
それは「特定有人国境離島地域」(有人国境離島地域のうち、継続的な居住が可能となる環境の整備を図ることがその地域社会を維持する上で特に必要と認められるもの)への適切な配慮を国及び地方公共団体に求めている。
これに従い、隠岐諸島4町村は、隠岐-本土間の航路・航空路の運賃助成を実施している。
隠岐の島町の場合、フェリー片道運賃(大人)は、助成前3,510円が助成後1,420円、高速船では、助成前6,680円が助成後3,020円、航空機(隠岐-出雲)では、助成前14,100円が助成後5,600円となっている。
島根県が実施した「有人国境離島地域における施策の効果等実態調査」の概要版(2019年3月)の考察では、「有人国境離島法に基づく、航路・航空路の島民運賃低廉化により、移動のための経済的負担が軽減され、島外へ出かけやすくなったことにより、島民の満足度は高い」と高評価であることが示されている。だからこそ「制度の継続、対象の拡大、手続きの簡素化、乗り継ぎ等の利便性向上などの声も多く、制度の継続やより利用しやすい環境にすることで、更なる利用増も見込まれる」という点に注目しなければならない。
自由意見においては、「割引運賃制度の継続」を望む声に加えて、「対象を島民以外・車輌運送費・大阪便の航空路への拡大の提案、増便による利便性向上」を望む声があったことを決して無視してはならない。
もちろん現在も、地域社会維持交付金や離島活性化交付金などを活用し、農林水産品などの移出や生産に必要な原材料等の移入に係る海上輸送費の支援はあるが、島内産業の置かれた状況を考える時、より一層の支援が不可欠である。
本土においては公共事業として交通網(ハード)が整備される。他方、航路も航空路もハードの建設や整備の必要はない。必要なのは低コスト化と利便性の向上というソフトの整備である。島民と島内経済にとって本土との交通手段は、文字通り生命線(ライフライン)。徹底したソフトの整備が永続してなされない限り、島と本土の格差は拡大するばかりである。
日本世論調査会が実施した「夏の参院選 全国世論調査」(1月19日から2月28日の間で実施。有効回答者数1841人、回収率61.4%)において、参院選の争点を問われて、「地方創生、東京一極集中是正」をあげたのはわずか4%。3つまで選べるにもかかわらず。国民のまなざしは本土内の地方はもとより、離島にすら向けられていない。
この程度の国民の意識では、世界に認められる隠岐ジオパークの維持は困難である。
「地方の眼力」なめんなよ
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