飼料用米で反収1トンを達成する方法とは?【熊野孝文・米マーケット情報】2022年3月29日
飼料用多収米コンテストで秋田県の生産者が10a当たり973㎏の収量を上げ日本一になり農水大臣賞を受賞した。戦前に飼料用米ではなく主食用米コンテストで反1t以上の収量を上げた生産者がいたことを文献で読んだことがあるので、農研機構に試験場レベルの最高反収がどのくらいになっているのか問い合わせてみた。その答えは長野県で1tを超えたとのことであった。飼料用米は主食用米と違い食味を気にする必要が無いのでもっと収量が上がっても良いはずなのだが、現実はそうなっていない。
飼料用米の収量アップについては、国が助成措置としてその地区の標準単収に比べ多く収量を得ればキロ当たり167円もの助成金が支給され、最高額は10a当たりで10万5000円にもなる。さらに種子や栽培方法など詳しく解説した多収米栽培マニュアルが誰でも参考に出来るよう農研機構よりネット上にアップされているが、飼料用米の全国平均の反収は主食用米の平均単収より低いのである。せっかくの支援措置等が生かされていないというのが実態。
農研機構からの回答は『最高収量および、過去に1t以上の収量を上げた品種は、「北陸193号」です。「北陸193号」は、近年、長野県において、収量1.1tを超えました。また2008~2010年の精玄米重の平均値が1053kg/10aと多収です。近年の関東でも、900㎏/10a程度と他の品種に比べて、安定的に多収です。1.1t超えの長野では、普通植栽培で、窒素成分で基肥と追肥で16kg/10a施用していました。PKは、12kg/10a程度施用していました。
作付け時期としては、各地域で登熟期に十分な日射量が確保できる時期に出穂することが重要になります。また長野県の栽培地域では、日射量が多く、気象条件が良いことがバイオマスが大きくなることや登熟の向上に影響したと考えられます。
関東に比べて、夜温が低く、このことも多収に影響した可能性があります。「北陸193号」は、耐倒伏性があり直播栽培に適しています』と言うものであった。
親切にも農研機構からは多収米を研究している別の部署から直接電話があり、過去の文献のことについても「当時の収量の測定値は現在のような明確な測定方法ではないので比較できない」との見方であった。また、海外で栽培された日本米が高い収量を上げているのは、豪州と日本では日照時間の違いが収量に反映されると説明してくれた。
文献と言えばつい最近幻冬舎から出版された『もしもがんを予防できる野菜があったら「遺伝子組換え食品」が世界を救う』(著者㈱アグリシーズ山根精一郎社長)という本に遺伝子組換え技術がもたらす5つのメリットの一つに生産者にとってのメリットとして①作物の収穫量が平均22%上がる②雑草防除の手間が大幅に減る③農薬散布量が平均37%減る(ゼロになる場合もある)④労働時間が大幅に削減される⑤生産者の収入が68%上がる⑤確実かつスピーディに品種改良が出来ると記されている。
遺伝子組換え稲についてはいわゆる花粉症緩和米が知られているが、育種されたから20年を経てようやく栽培実験計画が認められた。それ以外にも20種もの遺伝子組換え稲があるが、いずれも商業用に栽培されているものはない。それだけコメはハードルが高いという事だが、不思議なのはトウモロコシである。海外から輸入される多くのトウモロコシはほとんどが遺伝子組換えトウモロコシで、それが家畜のエサや油脂原料、さらにはコーンスターチなどに使用されている。にも関わらず日本では遺伝子組換えのトウモロコシは栽培されていない。コメの転作作物としてトウモロコシを奨励するのなら生産者にメリットのある遺伝子組換えのトウモロコシで良いのではないか。
著者の山根精一郎社長は長く日本モンサントの社長を務めていた人物だが、モンサント時代に直播で収量性に富む「とねのめぐみ」などを開発育種した。この品種を普及させるために日本モンサントを退職後、㈱アグリシーズを立ち上げた。「とねのめぐみ」は、従来の育種法で生まれた品種なのだが「モンサント」と社名を聞いただけで実証栽培を断られたという苦い経験がある。山根社長は、この品種を用いて直播で収量性をあげ日本の稲作に貢献したいという思いの一点だけでアグリシーズを設立した。
著書に「遺伝子組換え作物に関する『いわれない不安』を、この本で終わらせたい。消費者の皆さんに、GM食品の安全性について知ってほしい。そしてなによりも、近い将来に顕在化する可能性がある食糧問題や環境問題について考えるきっかけになるような本を作りたい」-これが筆を執った動機だと記している。
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