(276)「その後」と翻訳【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年4月1日
物事に「白黒」あるいは「勝ち負け」をつけるのは分かり易く、勝った方は気分が良いものです。それで全てが完結する限りにおいて。しかし、現実には多くの物事は目につきやすい「勝負」がついた後、延々と「その後」が続きます。
どこまで先が見えるのかと問われれば、「一寸先は闇」としか言いようがない。この先、何が起こるかなどは恐らく誰にもわからない。それにもかかわらず、どうも人は「わかった風」に物事を語る傾向がある。大学の教員歴がそこそこ長くなると、他人から「先の見通し」を尋ねられることがあるが、正直わからない。
数学が得意であれば、様々な変数を入れて複雑な将来予測の数式を作ることはテクニカルには可能かもしれない。だが、影響力が極めて大きく事前に想定できない要素などいくらでもある。実際に過去2年間、我々が経験してきたことが良い例である。
したがって、将来を考える時に参考になることは、過去の類似例をしっかりと理解し、それを参考に現在の事象の深層をよく考えて対応することくらいではないだろうか。
例えば、わが国は先進国であるかどうか。かつては先進国だったが今は違う...、いや依然として先進国だ、など意見は分かれるかもしれない。では、基準は何かと問えば、1人当たりGDPが何ドルだとか、インフラが整っているとか、治安が良いなどという話が出てくるであろう。これらは全て表面上のことである。
忘れがちだが重要な点は、数多くの書籍が日本語で読めるという点である。古典だけでなく、ほぼ全ての分野の専門書籍を日本語で読むことができる。世界中の先人の知恵の集積を母国語で読めること、これこそが先進国の証である。海外生活を経験すると、その有難さがよくわかる。興味がある作品が母国語に訳されていない場合、原語で読むか、英語やフランス語などに訳されたものを読む以外に方法が無い。日本語で全て事足りる点は、無理して外国語を習得しなくても良い理由になることも確かだが、この話は別の機会にしたい。
翻訳書の数が多いのは多くの先人たちが苦労して翻訳という学問上は余り評価されない仕事を引き受けてくれたおかげである。芥川龍之介に『鼻』という短編があるが、ウクライナの作家、ゴーゴリにも同じ題名の作品がある。いずれも何とも言えない短編である。ゴーゴリと言えば『死せる魂』が強く印象に残る。恐らく筆者が「農奴」という単語を本当に意識した上で知ったのは、大昔、この本を読んだ時からかもしれない。こうした作品が手軽に日本語で読めることがいかに貴重であるか。
もちろん、ロシアの作家ドストエフスキーやトルストイの作品も日本語で読める。しばらく読書をしていない社会人だけでなく、学生さんには、にわか専門家のような形で国際情勢を議論するよりは、この機会にゴーゴリやトルストイをしっかり読んでもらいたい。そうすれば、彼らがなぜ何に執着するかの気持ちが少しはわかると思う。
問題は腕相撲の勝負のような一瞬の話ではない。過去から綿々と続く長い時間の中で、それなりに折り合いをつけてきたにもかかわらず蓄積された、お互いの感情の上に無視できない現実が構築されていることが根底にある。それは洋の東西を問わない。
平和は多くの人の共通の願いだが、対立の根源を理解し、それを解消しない限り、平和を維持することは難しい。さらに言えば、表面上の「勝ち負け」はわかりやすいが、それは平和の維持とは一定の距離があることも覚えておく必要がある。
* *
被害を受けた人々に、一刻も早く「普通の日常」が戻ることを祈念します。同時に私達は「普通の日常」は自然に与えられるものではなく、維持するにはそれなりの努力が求められるということを再認識する必要があるのではないでしょうか。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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