「協同組合脳」と「ビジネス脳」の葛藤を超えて【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年5月17日
経営上の意思決定と二つの「脳」
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
最初から、大げさなタイトルで申し訳ありませんが、二つの脳のどちらも経営上の意思決定には必要で、どちらを優先すべきか、いつも悩まされてきたのが、JAのコンサルティングでした。
JAの経営上の判断、意思決定においては、企業経営と同じように、データ分析や調査結果などをもとにして、論理的で、客観的、実証的に課題を明確にした分析的思考、いわゆる"ビジネス脳"を使って提案します。
勤続年数の長い職員や理事のみなさんの多くは、JAが利益を追求しない非営利組織であること、組合員に対しては、すべて「平等な条件」で、一律な方針、価格、手数料率は当たり前と考えています。JAは民間の会社とは違う、「協同組合は、こうあるべし」という考え方を優先します。これを"協同組合脳"と考えています。
どちらが正しいかではなく、これまでのJAは、協同組合脳とビジネス脳をうまく活用し、歴史を重ねてきたように思います。
ビジネス脳での思考と決断が必要な「問題」
かつて、ビジネス脳で考えなければ、こんな大きな問題の解決は難しかった、と思われる現象への対応のケースを紹介します。
大口利用の組合員の貯金や融資、経済取引などが大きく減少し、管内の競合先の会社との取引に換わってしまう事態の発生です。また、経営規模の大きい農業経営者のJA脱退もあり、経済事業や販売事業の利用量や金額が急減してしまう、といった問題への対応です。こうした現象は、連鎖を生むからです。
協同組合の"大原則"である、組合員は平等で、価格や手数料率は一律であるべきだ、という判断があったからです。この方針を代えた後でも、その組合員は戻ってきませんでした。この時、組織運営上の「平等」は堅持すべきだが、事業上は「平等」ではなく、「公平」を優先して考えるべきである、ということを役職員とともに学びました。25年ほど前のことです。
また、支所や経済事業施設の再編・統合などを考える場合も、実際の利用者数や利用内容などの実績や経営状況などのデータ分析を行い、競合関係の調査結果やマーケティングなど総動員し、ビジネス脳を優先させて、このままでは、このような経営上の危険性が存在するという報告書を作成します。それをもとにした提案書を提出します。しかし、JAの経営会議や理事会において、そう簡単に理解は得られません。
コンサルの提案に対して、再編・統合は、時期尚早であるとの結論に至った事例もあります。この反対論の背景には、協同組合脳での思考があり、ビジネス脳で物事を思考する、損得や利益で経営判断することへ批判的な思いが強かったように思います。
いまは、ビジネス脳一辺倒の傾向で疑問も
このように、常にJAの経営的な判断には、2つの「脳」の葛藤があり、どちらかといえば、コンサル屋の私は、ビジネス脳の代表で調査し、提案する立場で、経営会議や理事会では多勢に無勢のなか、憎まれ役を演じてきたように思います。
ただ、ビジネス脳での実証的で論理的な分析、組合員や農業経営だけでなく、地域のマーケットの変化も予測しながら、5年先、10年先を見すえた方針や提案でした。なので、若い理事、農業経営者の理事からは、前向きな質問や賛成もいただきました。JAの中堅・若手職員からも歓迎されました。これまでの慣習や「原則」最優先での物事の判断では、10年先が見えない、不安が大きい、と話す職員も多かったのです。
最近、「経営の健全性の確保」が強調され、指導機関からは10年後の経営シミレーションが示され、利益減が必須である、だから、計画的に経費の削減を行うしかない、とネガティブな発想で、何から費用削減の手をつけるかを考えている経営者も少なくないでしょう。
こうなると、協同組合脳の出番は少なくなり、ビジネス脳で考え、検討せざるを得ない、といった傾向が強まるでしょう。組合員や農業経営者には、好ましくない収益性向上一辺倒の経営判断となってしまう危険性も生まれてきます。
ビジネス脳で考える事業・経営の論理と、協同組合脳で考える論理のいずれを優先すべきなのか、という"葛藤"がなくなり、ビジネス脳での判断が優先されます。これまでは、コンサルはビジネス脳で、JAの会議でも少数派、実証的な分析思考で議論を仕掛けてきたのですが、いまは、反対に、協同組合の特性を活かすべきである、と協同組合脳での思考と検討の重要性を主張し、ビジネス脳を活用して論理化しなければいけないと思うこの頃です。
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