「貧困の拡大」と「聞く力」【小松泰信・地方の眼力】2022年5月18日
「驚かされたのは今月、テレビドラマやCMで活躍した俳優と、人気お笑いトリオのメンバーが相次いで亡くなったことだ。新型コロナの影響などから『心の病』になり治療を受けていたとの家族のコメントや、警察が自殺とみて調べていることが伝えられた」(山陽新聞5月18日付社説)。
広がる隠れ貧困
NHK「おはよう日本」(5月16日、6時台)は、広島市での取材から、コロナ禍において、これまで貧困と無縁だった人が、家も仕事も失ってしまうことが特別ではなくなっていることを伝えた。
民間団体による、生活支援物資無料配付会場に来ていた女性へのインタビュー概要。
「働いていた店がなくなり大変です。買い物行くにも...」とは、飲食店元従業員(60代)。
「コロナで仕事が少なくなって、お米も1回分でもあったらすごく助かる」とは、ブライダル関連従事者(50代)。
生活に困った人を保護するシェルターに身を寄せている建設会社元従業員(60代男性)は、「お金がなくなったので駅の地下で野宿をしていた。やっぱり惨めですよね」と、心情を吐露する。
そのシェルターは広島市から委託を受けた団体(広島県社会福祉会)が運営。シェルターの利用は原則3カ月以内。住む場所と食事を提供し、生活再建を支援しているが、利用者は後を絶たないとのこと。
同福祉会の岡崎仁史(おかざき・ひとし)相談役は、「(日本は)中間層が非常に幅が広かったが、特に中間層の下の方の部分が仕事をなくして、生活困窮の方が非常に増えています」と語る。
長年ホームレスなどを支援してきた牧師の播磨聡(はりま・さとし)氏は、「コロナ以降、見た目は誰とも変わらないような人が来られます。隠れたかたちで困窮されている状況の人が増えていると思う」と、隠れ貧困の広がりを示唆する。
貧困が見えにくくなっているからこそ、〝助けを求めやすい環境が欠かせない〟と、昨年12月から多くの人に支援が届くように教会で食品などを配り始めた。
「誰でも生活に困窮していく可能性が出てきた。そういう時代だと思う。困っているとご自身が思ったら支援の対象です。(中略)地域の人からもたくさん寄付をいただきながらこれからも活動していきたいと思います」と、播磨氏は語る。
暮らしの安心を保障することは政治の責任
期せずして、同日の毎日新聞の社説も、「食料品、ガソリン代がどんどん値上げされ、食べていけるか心配だ」という切実な声を紹介し、「ロシアのウクライナ侵攻によって加速した物価高が、苦境に追い打ちをかけている」と訴える。
「感染拡大の当初から目の前の困った人に手を差し伸べてきたのが各地域の民間団体」としたうえで、「コロナ禍が長引いて支援を必要とする人が増えているにもかかわらず、景気悪化で企業や個人の寄付が減少している」ことから、「特に小規模NPOの経営が厳しい」ことを紹介する。
そして、「自民党政権は、公助よりも自助や共助を強調してきた。だが、社会的に不利な立場に置かれている個人にとって、できることには限界がある。暮らしの安心を保障することは政治の責任だ。政府や自治体は民間団体と協働し、誰一人取り残さない仕組みを早急に作らなければならない」と、政治の責任を強調する。
長生きしてはダメですか
今年10月から、一定の所得がある75歳以上の人は、医療費負担が1割から2割へとなる。
高齢者の生活向上を掲げる「日本高齢期運動連絡会」は、岸田首相へ直接高齢者の声を届けるために、『岸田さんこの声聞いてよ』アンケートを実施した。調査は昨年12月から取り組まれ、全国18県から1,665人分を回収した。5月16日に公表された調査結果のまとめは、宮城県社会保障推進協議会BLOGに掲載されている。
自由記述欄に切迫した生活実態が記されている。象徴的な記述の概要はつぎの通り。
(1)美容院を経営しているので売り上げの減少=高齢者の方の来店回数減少によりいろいろと出費を控えるようになりました。
(2)岸田さん、高齢者の多くが国民年金の収入だけで生活しています。想像力を働かして1か月6万5000円で生活するための予算を、住居・食費・医療・光熱・教養(TV、新聞、通信)だけの項目で作ってみてください。
(3)一番切りつめたのはやっぱり食費です。食事の楽しみ全然ありません。作る楽しみもありません。
(4)「退職して悠々自適に暮らす」という言葉は一般庶民には死語になってしまった。この先健康に暮らしていけるよう、年金を引き下げることをやめてほしいし、安心して病院に行けるよう75才以上の医療費2倍化はやめてほしい。
(5)歯科・眼科を含め5か所の医者通いで通院のみですが昨年は1年間で7万円の支払でした。「白内障が少し出てきているネ、まだ大丈夫だけどいずれ手術が必要になるでしょう」といわれております。医者にかかるのは本当に控えるようになります。
(6)身内(姉 77 才・兄 79 才)が自殺した。安心・安全の老後がおくれなかった。
大企業栄えて貧困拡大す
ところが、西日本新聞(5月18日付)の社説は、「大企業の好決算が続いている」ことから、「業種や地域に差はあるものの、多くの企業がコロナ禍を乗り越えつつあると言っていいだろう」としたうえで、「問題は、好調な業績を日本経済の再生や地域経済の成長にどう結びつけるかである。配当を増やし、内部留保を積み上げても経済は回らない」と指摘する。
「大企業の経常利益は2000年度から20年度にかけてほぼ倍増し、配当は6倍近くに増えた。にもかかわらず、成長に必要な設備投資や人件費は横ばいで、中小企業の人件費は逆に約16%減った」ことを紹介する。
「日本は可処分所得が増えず消費は伸び悩んだままだ」と嘆き、家計が食品などの値上げに直面している状況下で、「物価上昇に賃上げが追いつかなければ、実質賃金が目減りし、消費にもマイナスだ」とし、日本経済の地盤沈下を食い止めるために、「利益の株主還元偏重」から「従業員や取引先など幅広い関係者に目配りした経営」を、企業に求めている。
残念ながら、この求めに応じる企業経営者はきわめて少数派。大多数の企業は内部留保と配当を増やし続ける。なぜなら、世界経済にも日本経済にも、多くの不安材料があることを十分承知しているから。
企業、特に大企業は優遇され、国民は冷遇される。国民が冷遇されていることに気づき、立ち上がらない限り、貧困は拡大する。
「地方の眼力」なめんなよ
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