(282)世界の穀物動向 最新情報から概観【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年5月20日
5月12日、米国農務省は最新の需給見通しを公表しました。ウクライナの小麦や米国のトウモロコシの生産動向、そして中国の大豆輸入動向など、2022/23年度の数字が初めて登場です。いくつか気になるところを中心に概観してみましょう。
まず、ウクライナの小麦動向だが、2022/23年度の生産数量は2,150万トンと、昨年の3,301万トンから大きく減少している。ちなみにロシアは生産量8,000万トンで昨年の7,516万トンからは増加である。
ウクライナとロシアの国内需要はそれぞれ1,120万トン、4,225万トンのため、繰越在庫を無視すれば差が輸出に回る。昨年1,900万トンを輸出したウクライナの今年の輸出は1,000万トンで半減見込みである。過去5年間が1,600~2,100万トンであることを見れば当然大減少である。ロシアの輸出は3,900万トンで昨年の3,300万トンより増えるが、こちらは過去5年間が3,300~4,100万トンのため数字上は順当な範囲である。
ウクライナの輸出減少分をどこが補うかと言えば、カナダ(+800万トン)、ロシア(+600万トン)、EU(+500万トン)、カザフスタン(+100万トン)といったところか。昨年1,000万トンを輸出したインドは800万トンに減少見込みである。経済制裁や港湾施設の被害もあるため、この数字が全て順調に出てくるかどうかは微妙だが、カナダとEUでウクライナの輸出減少分を補った形となる。
その結果、世界全体として見れば、小麦の貿易量は2億525万トンで昨年より367万トン多くなる。この形で物事が推移し、さらなる不測自体が起こらなければ今年は全体として何とかなりそうである。そうなってほしいものだが、目の前の様々な懸念要素に基づき市場は想定外の行動に煽られるのも世の常である。この秋の小麦作付けまで考慮すると万全とはほど遠い状況にあると理解しておいた方が良いかもしれない。
次にトウモロコシだが、こちらは過去5年間、1,800~3,000万トンを輸出していたウクライナが2022/23年度は900万トン(昨年は2,300万トン)と大きく減少見込みである。ロシアのトウモロコシ輸出は430万トンだが、過去5年間は280~550万トン程度のためウクライナからトウモロコシを輸入していた国々は輸入先をシフトせざるを得ない。
どこにシフトするかだが、こちらは輸出最大手の米国も6,200万トンと減少(昨年6,350万トン)であり、今年の減少部分を補うのはブラジルの4,650万トン(+1,250万トン)がほぼ唯一である。北半球の米国は現在作付けが相当遅れている。平年であれば67%の作付進度は49%、生産量第1位のアイオワ州などではまだ57%である(5月15日時点)。それでも全米の主要州の作付けはこの一週間で27ポイント進展した結果である。生産季節がずれたブラジルのトウモロコシ生産が作年1億1,600万トン(米国・中国に次ぐ第3位)あったこと、そして同国の国内需要が7,700万トンとまだ成長途上であることが世界全体としては良い方向に作用した形である。
今期の米国産トウモロコシは、量はそれなりに取れるであろうが、旺盛な国内需要と他国からの需要集中が重なり基本的に価格の低下は望みにくい。そうなるとブラジル産だが、こちらは輸送距離、つまりコストの問題があり、やっかいな年になりそうだ。局面次第では日本もブラジル産トウモロコシを使用せざるを得ない状況が生じる可能性が出るであろう。
マズローの欲求段階説ではないが、自己実現(独自のブランド)や社会的欲求(例えば安定した品質)は安全欲求や生理的欲求、すなわち「モノの確保」が満たされた上での話である。長期安定供給が当然の米国産トウモロコシに慣れた関係者は、早い段階でブラジル産の使用可能性や他品目あるいは国産原料での代替可能性を理解・検討した上でいざという時の切り替えに備えておくことが必要になる。
**
アフリカ豚熱の時も豚肉は最悪の事態が想定されましたが、何とか乗り切ることができました。今年から来年はさまざまな極論が聞かれるでしょうが、現実には国内海外全てにおいてかなり神経を使う具体的な調整や交渉が継続するのではないでしょうか。
最新の記事
-
兄姉の仕事だった子守り【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第267回2023年11月30日
-
これまでのIPEFの交渉経過を振り返る【近藤康男・TPPから見える風景】2023年11月30日
-
花市場開設100周年【花づくりの現場から 宇田明】第23回2023年11月30日
-
昔懐かしの"ぱんぱん菓子"で特産物PR JA晴れの国岡山2023年11月30日
-
「運動嫌い」2割以上 小中学生の運動に関する意識調査 JA共済連2023年11月30日
-
豊橋産農産物が大集合「愛知 豊橋どうまいフェア」開催 ドン・キホーテで12月1日から2023年11月30日
-
地域農業の未来設計「第15回やまなし農業・農村シンポジウム」開催 山梨県2023年11月30日
-
ラジコン草刈機カルゾーシリーズにハイスピード4輪モデル「LM550」追加 SUNGA2023年11月30日
-
『イシイのおべんとクンミートボール』50周年記念「イシイの福袋2024」12月1日から予約開始 石井食品2023年11月30日
-
「茨城を食べよう」連携第6弾「お米コッペ いばらキッス&マーガリン」など新発売 フジパン2023年11月30日
-
鳥インフル 米テキサス州、オハイオ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2023年11月30日
-
鳥インフル ニューメキシコ州、サウスダコタ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2023年11月30日
-
「フードコツ」プロジェクト「食品ロス削減月間」アクション数が87万件を突破 クラダシ2023年11月30日
-
オリジナル雑煮レシピコンテスト「第2回Z‐1グランプリ」全国の小・中学、高校生から募集2023年11月30日
-
第24回グリーン購入大賞で「大賞・環境大臣賞」をダブル受賞 日本生協連2023年11月30日
-
千葉市と「SDGs推進に向けた包括連携協定」28日に締結 コープみらい2023年11月30日
-
自家受精進化の謎を解明 新たな植物種の交配など栽培植物の育種の応用へ 横浜市立大など研究グループ2023年11月30日
-
愛媛県産ブランド柑きつ「紅まどんな」のパフェ 数量限定で登場 銀座コージーコーナー2023年11月30日
-
バイカル地域での現生人類の拡散時期と要因を解明 森林総合研究所2023年11月30日
-
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「子どもの食 応援ボックス」に協賛 日本生協連2023年11月30日