【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】納得できる説明が必要~酪農をめぐる不条理2022年6月9日
今、乳製品在庫が増え、資材価格暴騰下で、乳価は据え置かれ、全国の酪農家は倒産の危機に直面している。その今、大量の乳製品輸入は予定通り続けると発表された。
先日、「酪農スピードNEWS」が以下のように報じた。
「農水省は3日、国家貿易による2022年度の乳製品輸入数量について、今年1月に設定した年間輸入枠を据え置くと発表した。製品重量で脱脂粉乳750トン(生乳換算5000トン)、バター7600トン(9万4000トン)、ホエイ4500トン(3万1000トン)、バターオイル500トン(7000トン)を維持する。国内の需給状況を総合的に判断した。」
酪農家は、乳製品在庫が過剰だから、生乳搾るな、牛を処分しろ、出口対策(輸入脱脂粉乳の国産への置き換え)に生乳1kg当たり2円(北海道で百億円、今年はさらに増額)出せと指示され、飼料・資材暴騰下で乳価は据え置かれたまま、赤字が膨らみ倒産の危機に直面する中、大量の乳製品輸入は続けられるのはなぜなのか。
1993年ガットのウルグアイ・ラウンド(UR)合意の「関税化」と併せて輸入量が消費量の3%に達していない国(カナダも米国もEUも乳製品が該当)は、消費量の3%をミニマム・アクセスとして設定して、それを5%まで増やす約束をしたが、実際には、せいぜい1~2%程度しか輸入されていない。
ミニマム・アクセスは日本が言うような「最低輸入義務」でなく、アクセス機会を開いておくことであり、需要がなければ入れなくてもよい。欧米にとって乳製品は外国に依存してはいけない必需品だから、無理してそれを満たす国はない。かたや日本は、すでに消費量の3%を遥かに超える輸入があったので、その輸入量を13.7万トン(生乳換算)のカレント・アクセスとして設定して、毎年忠実に13.7万トン以上を輸入し続けている、唯一の「超優等生」である。
コメの77万トン、そして、うち36万トンは必ず米国から買え、という密約(命令)に従い、コメも乳製品も輸入を続けている。国は「日本は国家貿易として政府が輸入しているので満たすべき国際的責任が生じている」と説明しているが、そんなことは国際的にどこにも書いていない。それが国家貿易だと義務になるという根拠を示す必要がある。
しかも、クラスター事業で多額の負債とともに機械・設備の増強、乳牛の増頭を政府が強力に誘導して酪農家が増産に成功したら、こんどは手のひら返しのように、在庫が増えたから、搾るな、牛殺せ、は無責任すぎないか。そればかりか、増産誘導のクラスター事業については、来年から予算を切られると困るから、従来通り予算をつけるので使ってくれという、まったく矛盾したことを行っている。
コスト暴騰下で赤字が膨らむ中、乳価の引上げも急務だが、需給が緩和しているのだから、仕方ないでしょ、と一蹴されている。みんな考えて下さい。生乳不足解消のために頑張ってきた酪農家さんが、コロナ禍もあり、一時的に在庫が増えた責任を負わされ、倒産しても、自業自得のように追い込まれている。国が動かないなら、消費者も、小売も、メーカーも、もっと考えて動かないと、酪農家は本当に倒産してしまいます。国民も食料危機に食べるものがなくなります。こんなことを放置している場合ではありません。
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