年間約10億食製造のパックご飯 メーカーが米穀業者向けに説明会【熊野孝文・米マーケット情報】2022年6月21日
中小の米穀業者の間でも「パックご飯」に関心が高まっていることからパックご飯メーカーの販売会社役員を招いて都内で情報提供される会合が開催された。パックご飯業界の情報を提供したのはOEM(自社で製造した商品を他社のブランドで販売する)でパックご飯を提供しているメーカーで、このところ米穀業者からの委託製造依頼が増えていることから米穀業者向けの商品サンプルや販売事例を交えて、実際に委託製造する場合の経費等について具体的に説明がなされた。

パックご飯メーカーの講演の概要は、コロナ禍の影響について、感染して自宅待機となった人に対して食料を供給することになっており、その中でパックご飯は1日10食分が提供される。仮に1日5万人が陽性になると1週間で35万人になり、これだけで350万食のパックご飯が必要になるが、実際にはその需要に対応出来るだけの供給量を確保出来なかったという。災害時にパックご飯の需要が増加するというパターンがコロナ禍でも同様の現象が起きている。パックご飯メーカー各社は増加する需要に対応すべく設備の拡充を図っているが、それでも現状は需要と供給のバランスが1対1になっているほど需要の盛り上がりがある。新規に工場を建設するとなると20億円から30億円投資しなくてはならず、大きな投資が必要で簡単な話ではない。ただ、国は輸出用としてのパックご飯に期待、支援策を講じており、自治体の支援を併せると建設資金の95%が助成金で賄えるという事例もあるほど手厚い支援策が講じられている。
現在、パックご飯は年間約10億食が製造されており、サトウ食品、テーブルマーク、東洋水産、ウーケ、アイリスといった大手で全体の9割を占めている。特にサトウ食品とテーブルマークはそれぞれ3億食を製造するまでになっている。パックご飯の商品カテゴリーは89%が白米で圧倒的なボリュームがある。それ以外では玄米・雑穀・健康系が8%だが、近年この分野が伸びている。特に玄米パックご飯では売れ行きが急増している商品があり、「金のいぶき」といった玄米で食べやすい品種を原料にしたパックご飯は供給が追い付かないほど。また、5食から10食入りのパックご飯の割合が増えており、これは日常的にパックご飯を食べている人が増えていることが要因で、日本の世帯数は4800万世帯だが、単身世帯の割合が増加、炊飯しない世帯が増えたことにもよる。このことは単にパックご飯が災害時の特需だけではなく、すう勢的に伸びるというライフスタイルの変化がその背景にあることが強調された。
米穀業者の委託販売事例としては、地元の銘柄米やブランド米の商品化を手掛ける例が多く、新潟のコメ卸は3パックを一組にして「新之助」を17万食、「佐渡コシヒカリ」を9万食販売した。地元のコメを使って地元のスーパーで販売するケースが多い。スーパー側も精米売り場の隣にパックご飯の売り場を併設するところが増えており、その場所に地元のブランド米のパックご飯が置かれていると消費者に与えるインパクトが違う。中には地元のブランド米をパックご飯にしてテレビCMを流している米穀業者もいるほどパックご飯に力を入れているところもある。
具体的に米穀業者がパックご飯の委託製造を依頼する場合の事例としては、原料米1tから1パック180gのパックご飯が1万4000個出来る。委託出来る1パックの容量は150g、180g、200gの3種類がある。1ケース36食入りで600ケースが最低の取引単位だが、それ専用のデザインや包材を作るため総量としては9万食が受注の最低ロットになる。
当然のこととして委託する側の米穀業者としては委託製造料金と売価の設定をどうするのかが最大の関心事になって来る。新潟のコメ卸の場合、3パックを一セットにして398円で販売している。普及品のパックご飯に比べればかなり割高だが、それは自社の手掛けたブランド米を消費者に訴求させるための販促資材とみなすという考え方もある。実際、最近、この会社に委託製造を依頼した九州の米穀業者は、自社が手掛ける地元のコメを全国ブランドにすべくパックご飯にしてネット上で販促を仕掛けるという手法を考えている。
輸出用商品としての可能性は、海外には炊飯器で炊飯するという習慣がない国も多く、手軽に和食を愉しむ食材として受け入れられるという需要はある。また、賞味期限が長いのもメリットでこの会社のパックご飯はPH剤を使っているためアメリカ向けに輸出出来る。そうした強みも説明された。
これまで米穀業者は玄米を仕入れて精米した商品を販売するという商売に特化してきたが、社会環境が変化している現在、パックご飯も扱うべき商品になりつつあるようだ。
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