【JCA週報】地域には「運動」がある(河野直践)2022年7月19日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が、各都道府県での協同組合間連携の事例や連携・SDGsの勉強会などの内容、そして協同組合研究誌「にじ」に掲載された内容紹介や抜粋などの情報を、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、現在の「にじ」の前身である「協同組合経営研究月報」1996年8月号に、当時の研究員であった河野直践氏が執筆された「地域には『運動』がある」です。
地域には「運動」がある
財団法人協同組合経営研究所 河野直践研究員
「環境と地域社会への配慮」という本号(1996年8月号)の特集は、もちろん、昨秋のICA総会で採択された協同組合の新原則(「協同組合とは何かについてのICA声明」)の、第7の原則を意識してのものである。原則は、次のようにいう。
「協同組合は、組合員がよいと思うやり方によって、その地域社会の永続的な発展に努めます」(『新協同組合とは」P.99)。
この原則は、協同組合が「仲間うちだけの利益追求」「狭い視野の協同」に堕することなく、地域の環境保全や適切な活用をはかることによって、地域のみんなの生活の向上に向けて活動しようという考え方に立って、新設されたものである。
その背後には、人々の暮らしが企業による際限のない営利追求にまきこまれ、世界の貧富の差がいっこうに縮まらないまま、地球環境が刻々と危機に向かっているという現実がある。営利企業に代わって協同組合が力を発揮することによって、世界の人びとが永遠に、人間らしく暮らしていけるようにしようという思いが、ここに隠されている。
だが、この原則の新設の背景には、もうひとっに、協同組合の皮肉な現実がある。それは、いまこそ力を発揮するべき協同組合が、往々にして「狭い協同」の中に安住し、あるいは事業的な成長の一一方で一般企業と似たような存在になり、それが協同組合経営の危機をもたらしているという点である。それをきちんと反省するところから、協同組合の再建をはかろう、というわけだ。
この原則の新設に、異論を唱える人は少ないであろう。しかし、それをいかに実践するかとなると、とたんに話は難しくなる。「必要なことではあるが、厳しい経営の現実のなかで、それをやる余裕がない」との答がまっている。そして本特集の各記事にみるように、現実とのはざまで苦闘しているというのが現場の実態であろうし、簡単にマネのできる「優良事例」がざらにあるわけでもない。
協同組合とて資本主義経済の中にある以上、「厳しい経済競争の現実」から自由ではいられない。しかし、その現実をこえる方法がないわけではない。それは、「運動」というものである。それも、単なる経済追求の運動ではなく、私的な損得をこえて、人類の共通の未来のために力をあわせよう、という運動である。
環境保護の運動、助けあいの運動......。地域を見周してみれば、人々のさまざまな献身的・自発的運動がある。そして、これに人々が集うなかから、NPO(非営利組織)が徐々にではあれ生まれてきている現実は、資本主義経済にあっても(あってこそ)、非営利・協同の経済が成り立ち、発展しうることを示している。
今日の協同組合の苦境は、協同組合が人々のこうした運動の担い手としての実態を喪失してきたところに由来すると思う。運動体としての魂を失ったとき、協同組合は固有の競争力を失う。どんなところからでもよい、人類の未来を救うための運動を、地域で提起するところから再出発をしてみようではないか。
財団法人 協同組合経営研究所 協同組合経営研究誌「協同組合経営研究月報」1996年7月号 No.514より
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