ストロー、麦わら帽子、虫かご【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第208回2022年8月4日
私の幼かった頃(=太平洋戦争改選前)の宣伝媒体としてよく使われていたものに琺瑯(ホーロー)看板(注)があり、店先や家の壁、塀などあちこちにかけられていた。いろいろな宣伝がなされていたが、中でも目立ったのが「大學目薬」と「中将湯」(注)、それに「カルピス」のホーロー看板だった。それには、白いシルクハットのような帽子をかぶった真っ黒い顔と服の人がコップの中の液体らしきものに入っているストローを真っ赤な大きな唇にくわえて吸っている姿が描かれていて、強烈な印象を与えたものだった。しかし飲んだ記憶はまったくない。私が物心ついたときはもう戦争が激しくなって「非常時」に入ったころ、一般庶民の私たちはもう飲めなくなっていたのだ、それでもストローは知っていた。脱穀の終わった麦稈をもらって、適当な大きさに切り、それを井戸水を入れた湯呑み茶碗に差し込んでストローだと称して飲み、何となくかっこいい気持ちになって遊んだりしたものだった。
幼かったから何も感じなかったが、カルピスのホーロー看板に書いてあった「初戀の味がある」、当時としたら鮮烈な宣伝文句、よくもまあ警察や軍部か黙っていたもの、戦争激化以前のものだし、戦中の金属回収などには供出もされたので何も言わなかったのだろうか。戦後もさび付いたこうしたホーロー看板のいくつかが放置されていた、
麦わらの持つこうした性質を利用してつくられたものにもう一つ、麦わら帽子がある。夏になると、大人も子どもも、都会でも農村でも、みんな麦わら帽子をかぶって外に出たものだった。軽いし、空気の通りはいいし、つばが広いので顔や首筋への直射日光も避けられ、雨が降った時もちょっとはしのげる、野良仕事をするときはもちろん歩くときにもよかったし、おしゃれにも使え、本当に便利なものだった。これは明治の初期に日本で開発したらしいのだが、英語でいうと「straw hut」、麦作地帯の欧米にはどうしてそれがなかったのだろうか。
私の子どもの頃、夏休みになると外出する子どもたちは一斉に麦わら帽子をかぶったものだったが、今はどうなのだろうか。
1973(昭48)年、ベストセラーとなった森村誠一の長編推理小説『人間の証明』の冒頭に出てくる西條八十の詩の一節「母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね」が一時期有名になったことがあるのだが、あの帽子は麦わら帽子であると私は覚えているのだが、もうそれを何十年も見ていない。売っていたらぜひとも買いたいのだが。
麦作地帯では麦わら帽子だけでなくさまざまな細工物をつくって販売したり、自家用に使ったりした。その一つに麦わらでつくった虫かごがあった。ごらんになってない方がおありなら、ぜひパソコンで検索して見ていただきたい、渦巻き状に編んだ非常に面白い形をしており、まさに芸術品である。私の母親の実家の集落では子どもたちが虫かごをつくり、遊び道具にすると同時に都市部の雑貨店が買いに来るのに売ったりもしたものだった。北海道でもつくっていた、子どものころ農作業に連れて行かれた時に畑の脇で暇つぶしに編み、虫を入れて遊んだものだったとお年寄りが語っていた。
麦わらはそれ以外にも、屋根を葺いたり、細工物にしたり、伝統的にさまざまな用途に使われてきた。
しかし、麦わら帽子は化学繊維の帽子に、麦わらのストロー、虫かごはプラスチック製にほぼすべて代わってしまった。
その結果の一つがストローの使い捨てによる地球環境破壊だ。今こうした使い捨てプラスチックの使用を禁止するという動きが世界的に起きている。そして紙製のストローに変えるという。それは悪いことではないのだが、それも森林の伐採等で環境破壊を引き起こす。
となれば、「本来のストロー=麦わらに戻ろう」、それこそが地球環境を救うのだ、という動きが出てきてもいいはずなのだが、手間暇、コストがかかってだめだということなのだろうか、残念ながら話題にもならない。困ったものだ。
(注)
1.琺瑯看板とは光沢のある塗装ないし印刷で仕上げられた金属製の看板のこと。昭和初期の広告媒体の主要な一つであり、町でも村でも道路沿いの家の壁に貼り付けられたり、店先にぶら下げられたりしてよく見かけたものだった。葉書や切手を売っている店先に掲げられている郵便(〒)のホーロー看板などがその典型だった。
2.婦人薬として用いられている生薬製剤のこと。
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