大谷野球-伝説の始まり 伊藤澄一 JCA客員研究員【リレー談話室】2022年8月18日
大谷翔平が8月10日にベーブ・ルースの伝説の記録に並んだ。ルースは1918年のシーズンに投手として13勝(7敗)、打者として11本塁打の記録を残した。大谷はこの日、25号本塁打と10勝(7敗)目を挙げ、投打の2桁記録を達成した。今シーズンに14勝の大記録も期待される。
神わざのピッチング
大谷の今年(昨年)の前半戦の成績は、投手の9勝(4勝)、打者の打率2割5分8厘(2割7分9厘)、本塁打19本(33本)、打点56(70)、盗塁10(12)であった。投手の成績が素晴らしい。とくに、6月から7月にかけての6連勝は、すべてがチームの連敗を阻止して圧巻だった。エンゼルスの連敗が球団ワーストタイの12となった翌日の6月8日、大谷の理解者でもあったマッドン監督が突然に解任された。主力選手の故障もあってチームのまとまりを欠き、無気力とも思えるゲームが続いていた。奮起した大谷は、6月10日のレッドソックス戦で本塁打を放ち、投げては15連敗を阻止した。その後の登板でもチームの4、3、2、5、6連敗を阻止する勝利で前半戦を終えた。大谷のトレード話も飛びかったが、残念ながら実現はしなかった。
大リーグは勝利至上の商業主義で選手の分業体制が確立している。選手の能力が得意分野に特化されている。投手も先発、複数の中継ぎ、クローザーと4、5人でまかなわれる。先発も80~100球程度までで完投・完封のケースは少ない。昨年9勝の大谷は5回以上を投げて勝ち投手の権利をもって降板しても勝利できないゲームが、6、7回はあった。まず勝てると思った3、4ゲームも逆転された。それが今年も続いている。大谷にとっての大切な時間が過ぎていく。投手は0に抑えれば負けはない。自ら打って点をとれば勝てる。今年前半の投手大谷の6連勝は、そのような奮闘ぶりであった。因みに、その6試合のデータの平均を見ると、投球回数は6回と2/3、被安打3.3本、奪三振9.7個、失点0.5点、防御率は0.5だ。神わざのようなピッチングだ。
汚れたユニフォーム
活力を失ったチームで、大谷を支えるモチベーションは何か。大谷の現在の『目標設定シート』はどのようなものか想像してみたい。目標は2つあるのではないか。日々の目標は、OPS(出塁率+長打率)だろう。出塁率は(安打数+四死球数)÷(打数+四死球数+犠飛数)であり、四死球も評価される。長打率は(本塁打数×4+三塁打数×3+二塁打数×2+単安打数)÷打数であり、ホームラン打者は有利となる。例えば、4打数2安打(1本塁打と1単安打)、1四球、1犠飛の場合は、出塁率は3÷6で0.5となる。長打率は本塁打と単安打の5÷4打数で1.25となる。OPSは0.5+1.25=1.75の大活躍となる。因みに、5打数1単安打なら、OPSは0.4と低くなる。このように毎日の打撃成績が積算され、8月10日時点の大谷のOPSは0.849でアメリカンリーグの10位だ。ユニフォームの汚れは、その証左である。投手だけなら汚れることはない。なんとか塁に生きて、少しでもホームに近づく打ち方がOPSを高める。大谷は本塁打を狙うが、足を使った長打や四球・敬遠も多い。日米の生涯OPSの歴代1位はベーブ・ルースと王貞治。ともに1.0を超えている。
大谷のもう一つの目標は、野球殿堂入りである。大リーグの野球殿堂入りは、10年以上プレーした名選手が引退して5年たつと、ベテラン記者の75%以上の投票で決まる。圧倒的な成績と人柄などが重視される。成績の目安は、投手は300勝、打者は3000本安打、500本塁打などとされる。28歳で大リーグにやってきたイチローは、数々の伝説とともに、通算3089安打の成績で2025年以降の殿堂入りが有力視されている。大谷は10年後に38歳だ。打者での500本塁打の可能性がある。35本塁打を10年続けると350本。8月18日現在、27号で通算120本塁打だから470本となる。人気低迷の大リーグに二刀流の殿堂入り目安ができるだろう。今、破格な大谷伝説が始まっている。
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