(299)「希少性」を持続的競争優位に【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年9月16日
人間の生存には食料が必要であり、食料生産と不可分な農業は極めて重要です。ところが、その農業に関係する「人・組織・社会の在り方」を学ぶ「農学系」人文・社会科学を専攻する大学生数が驚くほど少ないこと、余り知られていないのではないでしょうか。
何かの分野で仕事を行う際、対象となる市場全体あるいは潜在的な顧客数がどのくらい存在するかを推定することは非常に重要である。いかに良い思い付きでも、その利用が一部の人達に限られていれば、ビジネスとしての成功には結びつかない可能性が高い。周囲の消費者だけでなく、日本中あるいは世界中で求められるニーズに応えられるか、これは極めて重要な視点である。
この当たり前のことを少し捻って考えると、面白い風景が見えてくる。例えば、学術の世界で農業関係は一般に「農学」と呼ばれ、その内容は「農学」「農芸化学」「農業工学」「農業経済学」「林学」「林産学」「獣医学畜産学」「水産学」「その他」などに分かれる。ここでの分類は文科省の「学校基本調査」の分類を使用している。
さて、2021年度の「学校基本調査」によると、農学系の大学生数(学部のみ)は国公私立大学合計で77,810人である。単純に4で割れば1年間に19,453人、つまり、農学系を卒業する4年制大学生は年間約2万人弱ということだ。これを分野別に示すと下記のようになる。
「農学」分野の最大手は「その他」を除く学生数で見る限り、「獣医学畜産学」である。次いで「農学」、「水産学」、「農芸化学」の順になる。「農業経済学関係」の学生数は2,603人、1学年651人に過ぎず、林学関係と並び学生数が少ない。
ちなみに、こうした統計において既存の分類項目に該当しないものはほぼ「その他」になる。「その他」が今後、独立した項目になり得るか、あるいは他の分野に吸収されてしまうかは判断が難しいが、最先端の動きの一端を現していることも事実である。
また、「農業経済学関係」と一括されているが、この分野には「農業経済学」、「農業経営学」、「農政学」などとともに、「フードシステム学」や「生物資源経済学」なども含まれる。同じ「学校基本調査」で社会科学の「商学・経済学関係」の学生数は459,085人、4で割れば114,771人となり、大きな違いがある。
「商学・経済学関係」を学ぶ45万人の学生に対し、農学系の中で「農業経済学関係」を専攻する学生数は2,600人、単純計算で1/176になる。これを圧倒的に少ないと見るか、「超」希少価値と見るかで世界の姿は変わる。筆者としては、この分野の基礎を学ぶ学生達に対するメッセージとして、これだけ「食」への関心が高い以上、一騎当千とまではいかなくても「百人隊長」のような意識と可能性、そして活躍を期待したい。
現実的に見れば話は簡単である。何も考えなければ圧倒的多数の人達と同じ考え・行動・成功/失敗パターン、に流される。生き残るために何をすべきかを本気で考えるならば、自分達は既に圧倒的な希少性があることを踏まえ、少数が生き残ってきた過去の事例から教訓を見つけ出し、自らの望む仕事や地域、スタイルに適した形を仲間とともに作りあげること、これが恐らくは今、「農業経済学関係」を学ぶ全ての学生に求められる「感度」ではないだろうか。
そんなことは不可能...、と思うかもしれないが実は歴史上こうした事例がいくらでも存在する。例えば、現代ヨーロッパの名産品や高級ブランドの多くは、希少性を徹底的に活かした形で、大量生産と効率化に邁進する産業革命の嵐を生き残った証でもある。もしかすると学術の世界では今、その対象が「農業経済学関係」なのかもしれない。
* *
「希少性」を持続的競争優位につなげるためには具体的に何が必要なのでしょうか。「農業経済学関係」を学ぶ学生さん達は、これを常に意識してほしいと思います。
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