(301)ウクライナの小麦とヒマワリ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年9月30日
今回はウクライナの穀物・油糧種子の生産と輸出を簡単にまとめてみましょう。日本では食料危機や「小麦」「肥料」などに注目が集まっていますが、意外と見落としがちな側面があります。
最近、食料危機を伝えるニュースが多い。中でも小麦は各所から報道やコメントがなされている。ロシアによるウクライナ侵攻により最も懸念された問題の1つが世界でも有数の穀倉地帯ウクライナの穀物生産であり、世界中の人々の主食である小麦の生産と流通、価格への影響である。これは確かに注目を集めるトピックだ。
米国農務省の統計によれば、昨(2021/22)年度における世界の小麦生産量は7.8億トンであり、そのうち約2億トンが貿易に回る。まずはこの基本を押さえておきたい。ここで言う7.8億トンには食品原材料としての小麦(wheat)だけでなく、小麦粉(flour)や小麦粉製品(wheat products)も含まれているが、内訳が示されていないため、通常はまとめて小麦として扱っている。
一方、世界の小麦生産上位国・地域のうち年間1億トン以上は中国、EU、インドの3つしかない。日本で馴染みの深い米国、カナダ、オーストラリアはいずれも年間生産量が5千万トン未満である。そして日本の小麦輸入は後者の3か国に全面的に頼っている。これも押さえておくべき重要な構図である。
さて、コメを主食とする日本やアジアの国々と異なり、欧米、中東、アフリカ諸国には小麦を主食とする国や地域が多い。これがウクライナ問題を食料の観点から考える際のポイントとなる。
現在のところ、世界の小麦生産量は今年「も」7.8億トンの見通しだ。正確に記せば、昨年は779,903千トン、2022/23年度の今年9月時点での見通しは783,918千トンで、何と食料危機が言われる中で前年比100.5%である。
各国の状況を見ると、通常1億トン以上生産する上位3か国と米国、オーストラリアが昨年並み、カナダは豊作(22,296千トンから33,000万トン)である。カナダの輸出量は昨年の14,952千トンが平年並以上の26,000千トンに回復する見込みだ。
主要な小麦輸出国の中で、今年から来年にかけて輸出量が減少する国はウクライナ(18,844千トンから11,000千トン)を除けば、インドとアルゼンチンくらいである。以上、世界の小麦動向を一言で言えば、ウクライナは減少したが、その分はロシアとカナダの輸出増加で補われ、全体としては前年並...ということになる。
それではなぜ、小麦関連製品の価格があがり、食料危機が叫ばれ、価格高騰が起きるかといえば、輸送と保険の問題である。全体の数字は辻褄が合っても、各国は自国への到着ベースで最も有利な産地から買付けをしている。輸送手段は圧倒的に船舶による海上輸送が多い。国際紛争が発生すると、平時における最も有利な輸送ルートが遅延し、場合によっては途絶え、運賃や保険料、燃料費、為替動向などが大きな影響を受ける。その結果が最終製品価格に反映される。一点集中の形で拡大した長いサプライ・チェーンの場合、どこかが機能不全に陥ると、代替ルートが無い場合の被害は甚大なものになる。
さらに言えば、炊けばすぐに食べられるコメと異なり、主食として小麦を使用する国では小麦粉を加工する段階で油を使用することが多い。つまり、粉と油はセットで考える必要がある。調理用植物油はインドネシアのパーム油、カナダの菜種油などが有名だが、ウクライナのヒマワリ油は黒海から地中海沿岸諸国の人々には昔から調理に欠かせない。
各国はウクライナのヒマワリ油が動かなければ、代替する他の油を、時間と費用をかけてどこかから調達しなければならない。これもコスト増であり輸送業者だけでなく消費者にも大きな負担となる。ヒマワリ油は日本では選択肢の1つだが、主食の調理用油と考えれば、アフリカ諸国にとって問題は小麦だけではないことがわかる。
ウクライナの穀物・油糧種子の生産と輸出をまとめると下記のとおりとなる。ヒマワリ関係は日本では見過ごされがちだが重要なポイントの1つだ。

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地場消費は生産と消費が直結しますが、生産地と消費地が遠いと、それをつなぐサプライ・チェーンの安定がいかに重要か、日本にとっても他人事ではないですね。
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