コメの配給制復活!?東京都の低所得者支援対策【熊野孝文・米マーケット情報】2022年11月22日
先週は18日朝から東京都の低所得者支援対策として25㎏1万円相当のコメが住民税非課税世帯に支給されるという話題でもちきりであった。東京都の非課税世帯は174万世帯もおり、すべてに25㎏のコメを支給することになるとその総量は4万tを超える。そのやり方によってはコメ流通業者に大変な影響を与えかねないだけにその対策に関心が集まった。
東京都によると低所得者支援対策として予算計上される約300億円の補正予算で想定されるコメの量は4万3500tにもなるという。こうした自治体によるコメの支援対策は他の自治体でも行われていたが、東京都の場合、その桁が違いすぎる。支援対策が一部マスメディアで報道されたときは具体的な数量までは記されていなかったので、著者も桁を間違えてしまった。
この対策が具体的に決まるのは来月の定例議会で審議されてからになるが、都では非課税世帯からはがきもしくはホームページに立ち上げたサイトに申し込めばコメを現物支給する方法を考えており、その事業者を入札で選ぶことにしている。そんな面倒なことをしなくても「お米券」を直接低所得者世帯に配布すれば済みそうなことだがそうはならなかった。
なぜそうならなかったというとお米券は有価証券なので財務省に資金決済証として2分の1の額を預託しなければならないことや偽造防止の印刷をしなければならないという面倒な手続きが必要になる。また、実際に自治体が米券を発送する場合、コロナ禍で市役所にとりに来てもらうというわけにはいかず、送付のために封入作業が必要でその業者を選定することはそうそう簡単ではないといった事情もある。さらには何といっても都からの発注枚数が4000万枚という桁違いの多さで断念せざるを得なかったという経緯がある。それでなくてもコロナ禍で自治体が米券を支給するというケースが増えており、お米券の発行枚数は前年度の1.5倍に達する勢い。
お米券での支給にならなかったことに一番ショックを受けているのは東京の米穀小売店である。お米券は1枚で440円相当のコメが買えるので10枚あれば10キロ買ってもおつりが出る。ただし、おつりは出せないので差額分をコメ以外の商品で充当する小売店もあり、その分売り上げに貢献する。都に4000万枚ものお米券が出回れば米穀小売店の活性化に大いに役立っていたはずだが、東米商には都から事前の相談はまったくなかったというのだからこれも驚きである。
実際に都からコメの配給が始まってからどのような影響が出るのか、コメ業界関係者に聞いてみると「対象になる低所得者の多くは単身世帯が多いと思われる。その単身世帯に25㎏のもコメが提供された場合、半年間コメを買わなくて済むという事態になる」「おそらくメルカリとかヤフオクにコメの売り物が出てくると思われる。何せ300億円分のコメが出回るのだから」といった声や事業主体が決まっても4万3500tもの精米をどこがやるのかという問題も発生するという。「既存の納入先への精米供給を止めて支援事業に特化するというのなら別だがそうしたことを単体でやる卸はいないだろう」という見解。
東京都はどうしたわけか急にコメに目覚めたようで、今年7月から米粉キャンペーン事業を展開している。キャッチフレーズは「日本、やっぱり米の国」というのだから今回の低所得者への支援事業もコメに目覚めたとかいうしかない。
これ自体は大いに結構なことなのだが、無償で4万tものコメが出回ることへの影響は計り知れない。
以前、農水省が中食業界の要請を受けて政府備蓄米を取り崩して売却したことがあった。その総量は6万t程度であったがそのインパクトは大きく、市中のコメ価格が大きく値下がりした。しかも最終的には大半が買い手が見つからなかったという落ちまで着いた。また自治体の中には自県産のブランド米が売れ残ったことから学校給食へ無償で提供しようとしたところ既存の納入業者の大反発を食ったというケースもあった。これは当たり前のことで税金を使って支援事業をすることでこうした副作用があることを十分に考慮して対策を打たないと既存の商権を侵害してしまうという結果になる。
そうした結果を招かず、消費者はもちろん流通業者、最終的に生産者にもメリットをもたらす支援策というものを十分に検討すべきで、コロナ禍下での一過性のものではなく、恒常的に発動できるシステムが必要になる。その場合、一番明快なのがフードチケットである。保存が効くコメこそはフードチケットで購入できる最強の食料で、自治体レベルではなく国レベルで創出すべき食料安全システムと言えるのではないか。
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