【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「通常時」「緊急時」の議論は意味をなさない2023年1月19日
ミニマム・アクセス枠、カレント・アクセス枠をめぐる議論の間違いをさらに数度に分けて解説しておきたい。資料・データは木下寛之JCA顧問に多くを依拠している。
昨年11月25日の衆院予算委員会では野党が政府に対し乳製品のカレント・アクセス枠全量を輸入する必要はないのではないかと追及した。野村哲郎農相は、カレント・アクセスの全量輸入は国際ルール上義務付けられてはいないと述べる一方、「通常時は全量輸入を行うべき」という政府統一見解を説明した。
野党からの「今は間違いなく平時ではなく、全量輸入の継続はおかしい」との指摘に対し、岸田文雄首相は「国内需給に極力悪影響を与えないよう需給動向を踏まえながら、脱脂粉乳やバターを輸入しており、国内需給への影響回避に向け脱脂粉乳とバターの輸入割合を調整できる余地はあると承知している」などと述べるにとどめた。
また野村農相は11月29日の閣議後会見で、1994年に公表したコメのミニマム・アクセスに関する政府統一見解(表参照)に触れ、「輸出国側が凶作で輸出余力がないような状態が例外的なケースであり、(25日の答弁でも)『今は通常のケース』だと申し上げた。WTOの中で決めたルールなので、輸出国に余力が十分あるにもかかわらず日本が輸入を拒否することはなかなか難しい。酪農もコメと同じで日本から拒否するということにはいかない」と述べている。
この説明・議論は、すべて間違いである。「低関税を適用すべき枠」としか定められていないのだから、通常時には全量輸入すべき必要など、国際的な約束にもどこにもない。「通常時」「緊急時」と言って、「緊急時」の定義を議論することに意味はない。
国家貿易だから義務が生じるという説明も、GATT協定における国家貿易企業(STEs)の定義に照らしても、明らかな間違いである。「関税及び貿易に関する一般協定」第17条は、国家貿易企業について「商業的考慮(価格、品質、入手の可能性、市場性、輸送等の購入又は販売の条件に対する考慮をいう。)のみに従って(a)の購入又は販売を行い、かつ、他の締約国の企業に対し、通常の商習慣に従って購入又は販売に参加するために競争する適当な機会を与えることを要求するものと了解される」とされている。
このように、WTOでも、国家貿易企業が100%の充足率を達成すべきであるとの問題意識を持っておらず、我が国のミニマム・アクセス米などに関する取扱いは、他に例を見ないものである。次回は、実際のデータで検証してみることにする。
注) 我が国のミニマム・アクセス米の取扱いについての平成6年5月27日の衆議院予算委員会での加藤六月農林水産大臣の答弁(議事録pp34~36)。
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