有事には花づくりをやめてイモをつくれ【花づくりの現場から 宇田明】第3回2023年2月9日
ロシアのウクライナ侵攻で食料安全保障の議論が活発になってきました。
食料安保には、稲や麦などの食料農産物だけが貢献し、花など非食料農産物は無関係というものではありません。花も食料安保に重要な役わりを担わされています。
だからといって、花農家にも食料農産物と同じように「世間なみの生活を保障せよ」と要求しているわけではありません。
官僚のモットーは「備えよ、常に~あらゆる事態を想定して~」ですから、「緊急事態食料安全保障指針」(2002年農林水産省決定、以下指針)を作成し、緊急事態に備えています。
食料・農業・農村基本法は、「不測の要因により需給がひっ迫するような場合においても、国民への安定的な供給を確保していくことは、国の基本的な責務である(2条)」と、高らかに宣言しています。
そのため、「不測時に食料の安定供給の確保を図るための対策やその機動的な発動のあり方などを内容とするマニュアルを策定」に加えて、シミュレーション演習も実施されています(緊急事態食料安全保障指針に関するシミュレーション演習の実施結果について「備えよ、常に~あらゆる事態を想定して~」農林水産省大臣官房政策課食料安全保障室 2019年)。
指針では、緊急事態を0から2までの3段階にわけて対策を示しています。最高レベルの緊急事態であるレベル2は、1人1日当たり供給熱量が2,000kcalを下回ると予測される場合です。
対策としては、
①熱効率が高い作物などへの生産の転換
②既存農地以外の土地の利用
③食料の割当て・配給および物価統制(物価統制令・国民生活安定緊急措置法・食糧法)
④石油の供給の確保(石油需給適正化法)
花が担うのは①。
具体的には、必要な熱量が供給できない場合にはイモ類の増産を行う。このために必要な面積は、以下の順序で非食用作物等の作付けを減少させることにより確保する。
a 花き、工芸作物(供給熱量がゼロ)
b 飼料作物(熱量効率が最も低い)
c 野菜(熱量効率が低いが、栄養素として重要)
d 果樹(永年性で減少後の回復は困難)
つまり、最高レベルの緊急事態には、供給熱量が0の花づくりをやめイモをつくれ。
ごていねいに、イモ類中心で2,736kcalが摂取できる献立をも示してくれています。
これは、太平洋戦争中のはなしではありません。令和の時代の指針です。その令和の指針が1941年(昭和16年)の臨時農地等管理令とまったくおなじ。
1941年3月29日読売新聞の見出し。
農林次官通牒(通達)
「農地管理令を発動」
「不急作物生産禁止」
記事の主な内容は、
一 田の主作としては稲以外の作物を新たに栽培することを禁止する
二 田に作付けする西瓜(すいか)、甜瓜(てんか;まくわうり)、花卉等の不急なる作物は制限する
三 畑も同様
新聞記事には花づくりは非国民・国賊とまでは書かれていませんが、露地での花づくりを禁止、制限されただけではありません。温室はガラスや鉄骨が軍に供出させられるか、空襲の目標にならないようにガラスに黒いペンキを塗らされました。それらを免れた温室では、イモなどの苗をつくらされました。さらには、政府や軍の意向を忖度した府県では、花のたね、苗、球根までも廃棄させました。
お役人は、緊急事態に、打つ手はありませんではすまされない。たとえ太平洋戦争時の臨時農地等管理令の引き写しといわれようと、国民を飢えさせない具体的な対策を示す義務があります。
そう考えると、最後の振興法といわれた花き振興法が2014年に制定されたのは、有事にイモをつくる優良な花農家を確保するためであったと勘繰りたくなります。
そのイモづくり要員として期待されている花農家が減りつづけています。2000年には8.8万戸でしたが、2022年には4.0万戸と、20年で半分以下に減ってしまいました(農林業センサス)。このままでは有事の際に、どれだけの花農家が残っているのか心配になります。
農地はあっても、イモのつくり手がなければ、食糧安全保障はますます絵にかいた餅(イモ?)、机上の空論。
「備えよ、常に~あらゆる事態を想定して~」は、花産業のためにあるようです。
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