【JCA週報】協同組合は多数派の論理なのか(森田邦彦) (1987)2023年3月6日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が、各都道府県での協同組合間連携の事例や連携・SDGsの勉強会などの内容、そして協同組合研究誌「にじ」に掲載された内容紹介や抜粋などの情報を、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、「協同組合経営研究月報」1987年7月号に、当時の協同組合経営研究所 研究員であった森田邦彦氏が執筆された「協同組合は多数派の論理なのか」です。
協同組合は多数派の論理なのか(1987)
財団法人協同組合経営研究所 研究員 森田邦彦
互いに貧しい時代には自分の苦しみを通じて他人の苦しみが理解できた。
経済成長は物質的な豊かさをもたらし、人々は暖衣飽食に馴れると弱者としての意識も薄らぎ、人の組織たる協同組合もかつて対抗した資本と強者の論理に、手段ばかりか目的までも模倣同化してしまい、貨幣と野放図な欲得心とが結びついて財テクや、マネーゲームが時代の先端にいる証しと思い込んでいる人も多いのが現在の世相である。
損か得か、安いか高いかという価値基準だけが異常に膨張して、人を動かすのもカネ次第、老人問題はシルバー産業にまかせておけ、地方の赤字鉄道は廃止して当然、効率の悪い農業はつぶして食糧は輸入すればよい、というように何もかも利益と効率とによって測ることが社会の進歩であるかのように、国と企業はマスコミを総動員して世論の形成をはかっている。
教育、医療(健康)、福祉、そして人間の生命まで、本来企業化すべきでないものまでが商品化の対象とされてきている。戦後の日本が何もかも見習ってきたアメリカでは最近、有料で火を消す消防企業が出現したという。
かつてのフロンティアの自由の精神は弱肉強食の論理に変質し、そこでは余剰農産物の陰に数百万の飢える人々がおり、老人蔑視感が全国に広がり大きな社会問題になっていることや、失業者と犯罪が増え続けていることなど日本の報道メディアは積極的にとりあげることはない。日本の国民にもたらされる情報はあまりにも政府と企業のチャンネルを通した情報に偏しているからである。
所得の向上が貧困時代の目標であったし、農業もその実現の一手段として取り扱われてきた。損得と効率の価値基準でみれば、農業は損な、低効率なものであることは間違いのないことである。
いずれは最大多数の最大幸福という誤った民主主義の手続きによって、コメの輸入を防くことは困難となり、やがて輸入反対の声は少数派の時代遅れの声として社会から葬り去られるかもしれない。
自給可能な農産物を価格が高いといって犠牲にする国は世界どこにもないというのに。
協同組合運動の経済行為は手段であり目的ではない。これが無視されるとき協同組合は自らの存在価値を失う。
「協同組合人は詩人のように生れながらの才能でできるものではない。つくられるものである。だから教育を原則の一つとしたのである。」......W.P.ワトキンズ
協同組合経営研究所 協同組合経営研究月報 1987年 7月号 No.406 より
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