【やさしい経済の話】望ましい金利(上)低金利の経済効果鈍く 浅野純次・元東洋経済新報社社長2023年3月14日
経済に詳しい元東洋経済新報社社長で石橋湛山記念財団評議員などを務める浅野純次氏が解説する「やさしい経済の話」。今回は「望ましい金利って?」を問答形式で解説してもらった。
日銀総裁が10年ぶりに代わるとかで、農家の主婦、里花(りか)さんもそろそろ金利が上がり始めることになるのか、興味津々です。でも考えてみると、金利って当たり前すぎて案外、わかっていないことだらけなのに気がつきました。久しぶりに従兄でジャーナリストの大地さんがやってきたので、さっそく質問を浴びせ始めます。
里花 大ちゃん、お久しぶり。この間は物価の話が聞けて良かったわ。今日はまた聞きたいことがあるんだけど。
大地 どうぞ、どうぞ。おいしいコーヒーがいただけるならおやすいご用だ。里花ちゃんも元気そうで何よりだね。
里花 おかげさまで。ところで日銀総裁が交代するとかで新聞に大きく出ていたけど、日銀って金利を決めるところよね。
大地 日本銀行は「中央銀行」とも「物価の番人」とも言われていて、金利を動かすことで物価をコントロールするのが大きな役割だね。正確にいうと金利の上げ下げだけでなくて、通貨の発行量をコントロールするのと、二つ併せて物価に影響を及ぼそうとしているんだけれど。
里花 公定歩合を動かすって昔、習った覚えがあるわ。
大地 そうだね。日銀の動かす金利つまり公定歩合は政策金利と呼ばれていて、日銀が市中の金融機関に貸し出すおカネの金利とか、金融機関の保有する手形などを割り引く際の金利のことだ。外国ではofficial discount rate といって公定割引率とでも訳すのかな。
里花 政策金利ってあまり聞いたことないけど。
大地 まっ、専門用語の一つだね。文字どおり、中央銀行が政策判断に基づいて決める金利のことさ。公定歩合のほか、市場に介入して変動させる金利もある。一方で、市中金利といって民間金融機関が互いに取引したり企業などに貸し付けたりする金利があるけれど、庶民にはこちらのほうがずっと身近だね。
里花 要するに、政策金利ってその国の基準の金利ってことになるのかな。
大地 なかなか鋭いね。大本の金利とも言えて、政策金利と市中金利が大きくかけ離れることは常識的にありえないことだ。
里花 公定歩合が0%として、民間銀行が年10%でおカネを貸すなんてことはありえないってわけ?
大地 どこかの「闇の王国」でもなければありえないな。そんな金融機関はたぶん暴利をむさぼることになるから、すぐ摘発の対象になってしまう。
里花 日銀はマイナス金利政策をとってきたんだったわね。マイナス金利って預金すると金利分、損するってこと?
大地 そういうことだ。ただし民間銀行でそんなことをしたら預金はみな引き出されてしまうよね。だからこれはあくまで日銀に当座預金をしている金融機関についてのことで、それもごく一部だ。日銀としての狙いは、民間銀行が利息を払ってまで日銀にカネを預けるなんて理屈に合わないことをやめて、そのカネを貸し出しに回すことで経済を活性化させ、インフレを起こさせようとしたわけさ。でもほとんど効果はなかったね。
里花 インフレを防ぐにはいくらでも金利を上げていけるけれど、デフレ脱却には金利の下限はゼロ近辺だから限界がある、という話を大ちゃん、していたわね。
大地 まあ、物不足などのハイパーインフレでは、いくら金利を引き上げても限界はあるけれどね。あっ、これも話したかな。
里花 政策金利の大事なところは、為替水準に影響する点、という話も前にしてもらったわ。日本がゼロ金利のままなのに、欧米がインフレ対策で金利を上げてきたことによる日本と欧米の金利差拡大が1ドル150円なんて円安を生んだこともね。
大地 そうそう。金利は、金利水準そのものと内外金利差の両面から景気に影響を与えていくということは大事な点だね。
里花 金利といっても長期金利と短期金利があるようだけれど普通、金利というと短期金利のことが多いのかしら。
大地 確かに公定歩合は短期金利のことをいうからね。短期金利というのは1年以内の資金の貸し借りをいうのが普通で、インターバンクといって、銀行間の短期の貸し借りもそうだね。例えば、コールマネーとかコールローンとかいわれるごく短期の金融取引は代表的な短期金利だ。コール市場でいちばん有名なのは無担保翌日物といって今日明日の貸し借りをするのさ。まさに「呼べば答える」市場だね。その金利をコールレートと呼ぶんだ。でも、もちろん長期金利もとても重要だよ。
里花 長期は1年超ということね。企業が設備投資などで銀行からおカネを借りようとすれば長期にならざるをえないわね。
大地 5年、10年で借りて少しずつ返していくのが普通だ。逆に5年で借りても返せなくてロールオーバーというんだけど、借り換えていくこともある。こういう長期資金は短期よりも金利が高めになることが多い。
里花 ちょっと専門的ね。
大地 そうだね。でも、専門ついでに言うと、日銀は長期金利も高くしないように抑え込む方針をとっていて、エコノミストの中にはそれに批判的な意見が強いということは覚えておいていいかもしれない。専門用語では日銀のそういう政策をイールドカーブ(利回り曲線)コントロール、YCCっていうんだけど、こちらは忘れてもらっていいよ。そんなら話さないで、って言われそうだけど(笑)。
里花 長短金利なら、私たちがおカネを銀行に預けるときのことを考えるとよさそうね。
大地 まったくだ。長期の定期預金と短期の普通預金を考えればいい。定期預金の金利は普通預金より高いのが普通だね。
里花 というより普通預金の利息は、今は事実上、ゼロよね。
大地 確かに普通預金の金利は0・001%なので100万円を1年預けて利息はたった10円だからね。とはいえ1年定期も10年定期もどっちも0・002%でしかないので、1年に20円だ。異常というほどの低金利時代だね。そもそも10年後も今の低金利が続いているかどうかは保証の限りではないから、もし途中で猛インフレになって金利が上がったら解約して預け直さないと損してしまう。そうなる可能性はないとはいえないと思うよ。
里花 今は金利を長期と短期で考える意味があまりない時代とも言えそうね。
大地 まさにそうだ。おカネを借りるうえでも長期と短期の差がほとんどなくなっているよ。その辺の話も少ししようかと思うけれど、この辺でコーヒーブレークというのはどうかな。
里花 はいはい、少々お待ちを。
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