(327)「医療・福祉」:就業者909万人【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年4月7日
令和5年度のスタートにあたり、日本の産業別就業者数を確認してみました。
総務省の「労働力調査」によると、わが国の2021年の就業者数は6,713万人である。簡単に一次・二次・三次という形で内訳を見ると、一次産業は208万人(3%)、以下、1,533万人(23%)、4,972万人(74%)である。
これを1960年以降30年ごとの推移で見ると、日本社会の労働力がどう推移してきたかがわかる。二世代前の1960年には一次・二次・三次の割合が、30%、28%、42%であったが、一世代前の1990年には7%、34%、59%、2021年には3%、23%、74%へと大きく変化している(表)。
簡単に言えば、現代日本人の4分の3は既に第一次産業はおろか、第二次産業にすら就業していない。日本の全盛期は「モノ作り」大国のイメージが強いが、就業者数の推移でみる限り、現実の第二次産業(製造業・建設業・鉱業)の就業者数は、1950年以降、現在に至るまで第三次産業を下回る。
第一次産業は1960年には1,340万人も従事していたが、その後急速に減少し、現在では208万人である。この数字は農業関係者には十分理解されていると思う。
一方、第二次産業1,533万人のうち、製造業は1,045万人である。残りは建設業485万人、鉱業3万人である。製造業のピークは数字を見る限り、1992年の1,569万人のようだ。製造業の就業者数は2000年には1,321万人、2010年には1,060万人と減少し、2021年は1,045万人と何とか大台を保っている。
さて、最大分野である第三次産業は約5,000万人である。第三次産業の中心は、かつては販売小売であったが、2021年は1,069万人に過ぎない。販売小売は正確に言えば、卸売業・小売業で、個別分野で見れば製造業とともに最大である。
しかし、重要な点は社会の成熟化と高度化に伴い、第三次産業の内容が急速に変化してきていることだ。
例えば、高齢化の進展に伴い医療・福祉関係のニーズが増加している。2023年1月分の医療・福祉分野の就業者数は909万人(注1)と、製造業、卸売業・小売業に次ぐ第3位である。ほぼ10年前の2012年が708万人であるため、10年間で200万人増加している。団塊の世代が後期高齢者に到達した以上、近いうちに医療・福祉分野の就業者が1,000万人を超え、第三次産業どころか全産業中の分野別第一位になる可能性もあるのではないか。
第三次産業には、この他に、金融・保険、不動産・物品賃貸、学術研究/専門・技術サービス、宿泊・飲食サービス・娯楽、教育・学習支援、複合サービス、その他がある。いずれも500万人に満たず、急増分野も無い。教育・学習支援と学術研究/専門・技術サービスが多少伸びているが、就業者数は各々337万人、255万人といったところだ。
話を第一次産業に戻してみよう。ここでも我々は今後大きな選択を迫られる。このままの流れが進むとどうなるか。第一次産業が直面する最悪のシナリオの1つは言うまでもない。食料の完全海外依存だが、そのようなことは誰もが望んでいないと思う。
もう一つは、国全体の労働力を自然な形で再配分する可能性である。仮に農林水産業の完全自動化・無人化が将来的に達成可能だとしても、そこに至るまでにはまだ相当の時間がかかる。つまり、現場の人手は当面どころか今後かなりの期間、必要になる。そうした中で、職業選択の自由、現実の所得、日々の作業と実際に習得すべき技術、そして農地の所有権や利用権だけでなく、水の利用や環境保護など、現実の生活という面で乗り越えるべきハードルは本当に多い。少しでも前へ進むためには先を見つつ、継続して知恵を絞り出すしかない。
* *
大学は新入生が入学してきました。新しい一年の始まりです。
(注1) 厚生労働省「労働力調査(基本集計)」2023(令和5年)1月分
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(159)-食料・農業・農村基本計画(1)-2025年9月13日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(76)【防除学習帖】第315回2025年9月13日
-
農薬の正しい使い方(49)【今さら聞けない営農情報】第315回2025年9月13日
-
【人事異動】JA全中(10月1日付)2025年9月12日
-
【注意報】野菜類、花き類、豆類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年9月12日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政も思い切りやってほしかった 立憲民主党農林漁業再生本部顧問・篠原孝衆議院議員2025年9月12日
-
【石破首相退陣に思う】破られた新しい政治への期待 国民民主党 舟山康江参議院議員2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政でも「らしさ」出しきれず 衆議院農水委員会委員・やはた愛衆議院議員(れいわ新選組)2025年9月12日
-
ドローン映像解析とロボットトラクタで実証実験 労働時間削減と効率化を確認 JA帯広かわにし2025年9月12日
-
スマート農業の実践と課題を共有 音更町で研修会に150名参加2025年9月12日
-
【地域を診る】個性を生かした地域づくり 長野県栄村・高橋彦芳元村長の実践から学ぶ 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年9月12日
-
(452)「決定疲れ」の中での選択【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月12日
-
秋の味覚「やまが和栗」出荷開始 JA鹿本2025年9月12日
-
「令和7年台風第15号」農業経営収入保険の支払い期限を延長 NOSAI全国連2025年9月12日
-
成長軌道の豆乳市場「豆乳の日」前に説明会を実施 日本豆乳協会2025年9月12日
-
スマート農園を社会実装「品川ソーシャルイノベーションアクセラレーター」に採択 OYASAI2025年9月12日
-
ご当地チューハイ「寶CRAFT」<大阪泉北レモン>新発売 宝酒造2025年9月12日
-
「卵フェスin池袋2025」食べ放題チケット最終販売開始 日本たまごかけごはん研究所2025年9月12日
-
「日本酒イベントカレンダー 2025年9月版」発表 日本酒造組合中央会2025年9月12日