「現場」で育てよう! 若手職員とチーム力【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年6月13日
不在でも強いチームはできる!

先日、職員数が1000名を超えるJAの役員とお話しした。悩みは、若手職員の育成とJAへのエンゲージメントを高めたいという。エンゲージメントは、従業員が組織の理念や方針に共感し、高い信頼感と貢献心をもつことだ。課題は明確である。上から目線やJAが教育研修・管理をするのではなく、職員の夢や意志を尊重し、資質を高め、能力を開発して、よりよいビジネス人生に寄り添うことである。
少し知恵を貸してほしいとの話だったが、コンサルの仕事は幕引きしたので、私の経験を2つお伝えした。今回は、その内容を紹介したい。
さて、私の実践・経験の一つ。まず、JAの職員は、准組合員でもあるというところが多い。二足のわらじを履く准組合員の職員に対して、失礼にならないように、丁重に対応する機会を設け、「准組職員」の意見や提案を拝聴することである。経営者も准組合員には、謙虚に接するべきである。アイデア拝聴会を定期的に開催するのもいいし、「准組職員」のためのユニークなイベント、家族向けのイベントなども企画したい。
もう一つは、支店や事業所などの「現場」において、職員の資質を高め、チームとしての力をパワーアップする実践的な方法である。その説明の前に、関連する大事な話をしたいと思う。
JAは「人の組織」であり、組合員の協同組織。組合員の経済的社会的な地位の向上や価値の創造が組織の目的だ。でも、そこで働いている職員もまた、人の組織で働いている。したがって、JAの職員には、協同組合運動に相応しい活動を率先して実行する行動力やリーダーシップを育て、組合員対応や組織活動支援、社会貢献できる企画力や行動力を育てることが必要なはずだ。
世界的に評価が高い、指揮者のいないオーケストラに学ぶ
ここで、私が参考にしてきた海外のユニークな事例を一つ紹介したい。私が30年以上、憧れている組織事例である。アメリカのニューヨークにある26人編成のオーケストラ、オルフェイス室内管弦楽団である。クラシック好きは知っている著名なオーケストラだ。1972年に創設され、ニューヨークで高名なカーネギー・ホールを拠点に、昨年、創設50周年を迎えた。少人数ながら音楽品質が高く評価され、世界各地で演奏会を開き、数多くの録音を残す。先頃、50周年を記念して55枚のCDセットが発売された。
このオーケストラの特徴は、指揮者がいないこと。指揮者がいないのに、高い評価の合奏力を発揮し、さらに、個々のメンバーの演奏技術の高さも秀逸なのである。
20年ほど前、このオーケストラの練習風景をウオッチするビジネスツアーがあり、何度か応募したり、現地で機会を伺ったが叶わなかった。異常に興味をもったのは、90年代末の『ハーバードビジネス』誌上で、このオーケストラをモデルにした組織論、リーダーシップ理論、チーム理論等々の議論が行われたからである。
そこで、論じられたのは、このオーケストラの組織運営は、固定的なリーダーを持たない、メンバーがフラットな関係(パートナーシップ)の組織で、目標を自由な議論によって完成させるチーム論、自由闊達な論議を行うコミュニケーション風土をもっていることをあげている。オーケストラのクオリティとパートごとのチーム力、フラットなパートナーシップがひとり一人の演奏技術を高めることにあるとしていた。
この組織プロセスは、サービス業を行う組織が学ぶべき点が多く、日本でも、金融機関やJAのような職員を育て活かす職場づくりには最適ではないか、と考えたのである。
小チーム、多リーダーの活動は、個を磨き、チームを育てる
スピードが求められる現代で、成果を生み出し、新たな組織コミュニケーションとマネジメントの創造、従業員へのエンパワーメント、高いモチベーションと能力開発などの実現には、絶好の「テキスト」と確信し、多くのコンサルや教育研修で紹介した。
そして、実践と成功のための重要なヒントを、当時のハーバード大学のハックマン教授は、「オルフェイスは、リーダーの数が多い。より正確に言えば、指揮者がいないからこそ、個々の演奏家が音楽の解釈にかかわらざるをえないのだ。オルフェウスの音楽家たちは、器楽奏者として自分の能力向上に努めるだけでなく、それとほぼ同等の力を注いでリーダーシップを発揮するための技術的な向上とその実践に努めなければならなのである」と。
この記事の一節はきわめて重要で、早速取り入れた民間企業で、小チーム、多リーダー化で成功した小売店の例がある。これは成功の一要件である。JAの支店においても、20人ほどの職員がいれば、複数のチームに参加してもらい、多チームでリーダーを選出する。各チームのテーマは、「やさしい店舗」「笑顔の接客」「JAらしさ」「利用者ボイス(声)」「「職員コミュニケーション」「ミーティングプラン」などの支店内の多様な問題を取り上げ、討議してもらう。メンバーの負担を軽減する意味で、話合い以外の方法も取り入れる。
立場、見方の違うメンバーでリーダーを経験し、まとめのプレゼンを行う。このプロセスは、リーダーが成長し、職場のコミュニケーションを格段に高める。問題へのアプローチ、課題解決のための対策・実践などの具体的な提案は、共有され着実に実践される。チーム運営も工夫を重ね、活動の共有化で、合理的な方法が洗練される。
ダラダラと続けず、期限を決めて、柔軟に活動してもらうこと。プロセスや結果に対しては、周囲の理解と共有が必要で、それが個々の職員とチームを育てる。
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