コメの市場があるメリットとは?その9 値決めに苦慮するコメ卸 【熊野孝文・米マーケット情報】2023年9月12日
5年産新米が出回り始めた現在、流通業者であるコメ卸は仕入・販売にどう対応しているのか?すでに早場米は昨年産より大幅に高い価格でスタートしたが、9月に入ってさらに値上がりしており、高温障害による収量の減少や品位の劣化も見られる産地もあることから北陸、東北、北海道といった主産地の新米が出回り始めても値下がりしないのではないかという見方が強まっている。こうした現状をどう見ているのか、どう対処しようとしているのかコメ卸のトップに聞いてみた。
―現在の市場の動向をどう見ているか。
「4年産は後半になってタイトになって来た。特にBランクはタイトだ。5年産米は農協系統の概算金が1000円から2000円と値上げしたこともあって、市中相場がさらに値上がりして産地が新米を出し渋っている状況にある。当社は取引先需要者から5年産の見積もりを9月10日や15日を期限に出すように求められているが、こうした状況では見積もりを出しようがない。先物取引市場があれば10月や12月の受け渡しで場が立っていたのでその価格を原価と見立ててその価格で見積もりを出せるが、それもないのでみんな困っている」
―概算金を値上げしているというのは5年産が不足するという判断なのか。
「足りる足りないかではなくて、食糧部会でも今年6月末の民間在庫が予想の範囲で収まったので、5年産の生産が計画通りであれば来年6月末の民間在庫は180万トン台になり、元年産ぐらいの価格水準に戻るようにしたいということなのだろう」
―食糧部会では卸サイドから5年産の生産量では需給がタイトになり過ぎるのではないかと懸念する意見も出ていたが。
「食糧部会の結果を全米販の組合員に説明してもらうために8月末にWeb会議を開催した。その時にもう一度説明してもらった。ポイントは3年産も4年産もBランク米が餌米に行った。とくに4年産は70万トン以上餌米に行ったので主食用の不足感が表面化して、価格が出回り初期に比べ1000円以上値上がりした。5年産も水田利活用で餌米や主食以外に振り向けられるので生産量が若干でも落ち込むと需給が窮屈になるという懸念がある」
―4年産は周年対策で25万トン残っているが。
「その分は基本的に今年11月から販売される。ただし、販売先は限定されており市中に出回ることはない。市中相場に影響が出ないようにするという対策なのかもしれないが、その分の供給を受けられる需要者と恩典を受けられない需要者が出るわけで不公平だという意見もある」
―5年産の価格が上昇して、品質も劣化するようであれば卸の対応も大変になりそうだが。
「これは天災ではなく人災だと思う。こうした環境を演出しているのであればコメの消費拡大などできない」
―コメの価格を決める新しい現物市場が出来るがどう見ているか。
「指標になる現物価格を作る市場ということだが、農水省が主導しているので価格センターの二の舞になるかもしれないが、今回ホクレンが参加すると表明しているので、ある意味系統もすべてがノーと言っているのではないので、ひとつの新しい動きではないかとみている」
―農水省から打診があったのか。
「それは来ているが、農水省には金でコントロールするのは止めてくれと言っている。金でコントロールするのではなく、すべて市場に任せないと市場が機能しなくなる。また、現物市場だけあって先物市場がないと上手く機能しないのではないか」
―現物市場でも先渡し取引が出来るが、既存のクリスタルライスのような取引市場で先渡し取引をしっかりやろうという機運はないのか。
「どこまでを先渡し取引というかになるが、令和元年から2年産にかけてガクンと価格が下がった。そのとき我々は複数年契約ということで安定取引を川上を含めてやっていた。あれだけ価格が下がると買い手の負担が大きく、結局先渡し取引は崩れていった。農水省は盛んに複数年契約を推奨するが、やりたくても市場がないのでできない」
―結局、先物市場が必要だということか。
「先に言ったように出来秋には新米が出てきて相場が立つのに今年は立たない。価格がフラフラして定まらない。先物市場があれば取引先にも説明が出来る」
―農協とか大規模生産者との事前契約は進んでいないのか。
「これらはこれまでの実績取引みたいなところがあり、昨年より増やすとか減らすとかいう中で信頼関係で行っている。ただ、価格はまだ相場が固まっていないので付けられない。
加工用米等の価格は決められるが主食用米は決めていない」
―価格と数量がセットになって決められていないとリスクになるが。
「上がったときは我々のリスク、下がったときは生産者サイドのリスクになる」
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(164)-食料・農業・農村基本計画(6)-2025年10月18日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(81)【防除学習帖】第320回2025年10月18日
-
農薬の正しい使い方(54)【今さら聞けない営農情報】第320回2025年10月18日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第114回2025年10月18日
-
【注意報】カンキツ類に果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 高知県2025年10月17日
-
【国際協同組合年・特別座談会】いまなぜ二宮尊徳なのか 大日本報徳社鷲山社長×JAはだの宮永組合長×JAはが野猪野氏(1)2025年10月17日
-
【国際協同組合年・特別座談会】いまなぜ二宮尊徳なのか 大日本報徳社鷲山社長×JAはだの宮永組合長×JAはが野猪野氏(2)2025年10月17日
-
【国際協同組合年・特別座談会】いまなぜ二宮尊徳なのか 大日本報徳社鷲山社長×JAはだの宮永組合長×JAはが野猪野氏(3)2025年10月17日
-
25年度上期販売乳量 生産1.3%増も、受託戸数9500割れ2025年10月17日
-
(457)「人間は『入力する』葦か?」という教育現場からの問い【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月17日
-
みのりカフェ 元気市広島店「季節野菜のグリーンスムージー」特別価格で提供 JA全農2025年10月17日
-
JA全農主催「WCBF少年野球教室」群馬県太田市で25日に開催2025年10月17日
-
【地域を診る】統計調査はどこまで地域の姿を明らかにできるのか 国勢調査と農林業センサス 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年10月17日
-
岐阜の飛騨牛や柿・栗など「飛騨・美濃うまいもん広場」で販売 JAタウン2025年10月17日
-
JA佐渡と連携したツアー「おけさ柿 収穫体験プラン」発売 佐渡汽船2025年10月17日
-
「乃木坂46と国消国産を学ぼう!」 クイズキャンペーン開始 JAグループ2025年10月17日
-
大阪・関西万博からGREEN×EXPO 2027へバトンタッチ 「次の万博は、横浜で」 2027年国際園芸博覧会協会2025年10月17日
-
農薬出荷数量は0.5%増、農薬出荷金額は3.5%増 2025年農薬年度8月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年10月17日
-
鳥取県で一緒に農業をしよう!「第3回とっとり農業人フェア」開催2025年10月17日
-
ふるさと納税でこどもたちに食・体験を届ける「こどもふるさと便」 IMPACT STARTUP SUMMIT 2025で紹介 ネッスー2025年10月17日