グローバル・サウス台頭の中、IPEFはどうなるか?~【近藤康男・TPPから見える風景】2023年9月14日
現在交渉中の、14カ国の参加するIndo-Pacific Economic Frameworkインド太平洋経済枠組み(以下IPEF)は、2022年2月11日にバイデン政権が枠組みを提示し、22年5月23日の訪日の際に13カ国(その後1カ国追加)での立ち上げを宣言して発足した。
しかし、米国はともかく、他の参加国はIPEFに強い利害と動機を持っているのだろうか?
正式な発足を受け、これまで2023年9月までに以下の通り交渉官、閣僚会合がそれぞれ開催された。

日本政府による公表情報は系統的でなく内容も不充分だ。例外は唯一"JETROビジネス短信"だろうか?。
IPEFをフォローしていて感じるのは、日本の外務省・経産省が交渉の経過・内容について系統的に資料の公表をしているとは言えないということだ。経産省・外務省のサイトを開いても、時々ごく簡単な経過報告はあっても、具体的な内容はほとんど載っていない。ただ、経産大臣が・外務副大臣が、出席します、というメモのような言及がされているだけだ。
例外といっていいのは、2022年9月8~9日の閣僚会合において明らかにされた4分野毎の交渉目標としての閣僚声明(日英文)と、2023年5月27日付の経産省サイトで検索出来た翻訳文書「サプライチェーン協定交渉の実質的妥結に関するプレスステートメント」くらいだろうか?
唯一ジェトロの「ビジネス短信」は、全ての会合・協議を時系列的に掲載し、いくつかの文書や、米国側のRead Outへのアクセスが出来るようになっている。従来の通商協定に係る公表とは全く異質だ。
そのため、交渉・協議がどのように進展しているのかほとんど理解できないのが実態だ。
そして、最新の公表資料としては、先日23年9月8日に外務省から「IPEFサプライチェーン協定における主な規定の概要」なる極く簡単な2ペ-ジの資料がウェブサイトに掲載された。
閣僚会合については、米国商務省とUSTRが、連名で"Read Out"を公表している(JETROビジネス短信はURLを掲載)が、それでも内容は簡単だ。
そして、9月8日に突然、「IPEFサプライチェーン協定における主な規定」という極く簡単な2ペ-ジの資料が外務省のウェブサイトに掲載された。
遅れ遅れになっているのだろうか?合意への道筋
今年の1月23日USTR次席代表は「年内に成果を出す」と日経新聞のインタビューに答え、更に(TPPも21世紀標準と言われたが)「CPTPPと重なる点はあるが、IPEFは21世紀の課題に対応するために作る」と言及した。更にUSTR代表のタイ氏は、4月来日の際に「5月APEC貿易相会合までに一定の成果を目指している」とも述べた。
しかし、5月に米国で開催した閣僚会合で、供給網については7月にも協定を、と言われたが、7月釜山の第4回交渉官会合では継続協議となった模様だ。公表された資料からは"おしゃべりの様子"しか伺えない。
果たして年内合意・成果は可能なのだろうか??
グローバル・サウスの台頭・個別利害への拘りが見られる中、主要先進国・新興国とも本格IPEF合意をどの程度真面目に見据えているだろうか?
これまで、USTRのタイ代表などが、発足前から「関税協議はしない」と繰り返し明言し、特に米国向け関税協議を期待しているCPTPP非加盟の新興国などの期待は削がれたままとなっている。米国連邦議会の承認を必要とする関税その他を含む国際条約を目指すとは考え難い。
IPEF交渉参加14カ国のうち米国・韓国(米韓自由貿易協定を除く)、フィージーを除く11カ国は既にRCEP,CPTPPなどの多国間経済連携協定を発効させており、米国との関税協議抜きの協定についてはあまり大きな期待は出来ないと思っているのかもしれない。
その上多くのアジアの国々は、日韓を含め中国との貿易依存度が最も高いのが現状だ。中国との間での貿易依存度は、豪州35%、NZ25%、韓国24%、ASEANも1~2割、ベトナム・インドネシア・日本なども1~2割となっている(22年9月11日付日経新聞)。
その上、グローバルサウスの"台頭"の中で自国の利益第一という流れが強くなりつつある。従がって"枠組みという形でフレンドシェアリング"をするだけでは"お付き合い"以上のことを期待出来ないと感じているのではないだろうか。
そうであれば、取りあえず"対立ではなく、連携・協力の枠組だけは"受け入れておこう、という辺りに落ち着くこともあるのかも知れない?
IPEFと他の多国間協定と、その呼称で比較してみると何か見えるだろうか?
以下は、外務省のサイトに載っている条約本文の英語・日本語の条文呼称を紹介したものだが、IPEF以外は英語・日本語のいずれかあるいは両方で"協定"とされている。

※興味のある方は以下を参照願いたい(いずれも日本語)。
○22年5月23日バイデン大統領13か国での発足を発表
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100347420.pdf
○22年9月9日閣僚会合:交渉目標
貿易:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100399484.pdf
供給網:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100399485.pdf
クリーンな経済:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100399486.pdf
公正な経済:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100399487.pdf
重要な記事
最新の記事
-
令和7年秋の叙勲 西沢耕一元JA石川県中央会会長ら93人が受章(農協関係)2025年11月3日 -
シンとんぼ(166)食料・農業・農村基本計画(8)農業の技術進歩が鈍化2025年11月1日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(83)テトラゾリルオキシム【防除学習帖】第322回2025年11月1日 -
農薬の正しい使い方(56)細菌病の防除タイミング【今さら聞けない営農情報】第322回2025年11月1日 -
酪農危機の打破に挑む 酪農家存続なくして酪農協なし 【広島県酪農協レポート・1】2025年10月31日 -
国産飼料でコスト削減 TMRと耕畜連携で 【広島県酪農協レポート・2】2025年10月31日 -
【北海道酪肉近大詰め】440万トンも基盤維持に課題、道東で相次ぐ工場増設2025年10月31日 -
米の1等比率は77.0% 9月30日現在2025年10月31日 -
2025肥料年度春肥 高度化成は4.3%値上げ2025年10月31日 -
クマ対策で機動隊派遣 自治体への財政支援など政府に申し入れ 自民PT2025年10月31日 -
(459)断食:修行から管理とビジネスへ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月31日 -
石川佳純が国産食材使用の手作り弁当を披露 ランチ会で全農職員と交流2025年10月31日 -
秋の果実王 旬の柿を堪能 福岡県産「太秋・富有柿フェア」開催 JA全農2025年10月31日 -
「和歌山県産みかんフェア」全農直営飲食店舗で開催 JA全農2025年10月31日 -
カゴメ、旭化成とコラボ「秋はスープで野菜をとろう!Xキャンペーン」実施 JA全農2025年10月31日 -
食べて知って東北応援「東北六県絆米セット」プレゼント JAタウン2025年10月31日 -
11月28、29日に農機フェアを開催 実演・特価品販売コーナーを新設 JAグループ岡山2025年10月31日 -
組合員・利用者に安心と満足の提供を 共済事務インストラクター全国交流集会を開催 JA共済連2025年10月31日 -
JA全農と共同開発 オリジナル製菓・製パン用米粉「笑みたわわ」新発売 富澤商店2025年10月31日 -
【スマート農業の風】(20)GAP管理や農家の出荷管理も絡めて活用2025年10月31日


































