政府備蓄米の加工用向け売却を復活して原料米の安定を【熊野孝文・米マーケット情報】2024年2月27日
日本の伝統的なコメ加工食品と言えば馴染み深いものとして米菓があげられる。あられ、せんべいを総称して米菓と言われるのだが、まさしくコメの菓子である。その米菓業界がかつてない苦境に陥っている。それは原料米の急激な値上がりで、国産特定米穀は米菓用クラスのくず白米でもキロ200円近くになっているほか加工原料として売却されるMA米アメリカ産の売却価格も大幅に値上がりしている。
米菓業界の全国組織である全国米菓工業組合の組合員数は中小業者の廃業等によりピーク時に比べ5分の1程度の290社まで減少している。ただし、米菓全体の生産量は横ばいに推移しており、大手企業の寡占化が進んでいる。中でも新潟県には大手米菓メーカーが集中しており、そのシェアは7割を超える。
その新潟県で大手米菓メーカーに原料米を納入している原料米搗精業者に現状を聞いてみると「メーカーには『先行きどうなるのかわかりません』としか言いようがない」という状況になっているという。先行きとは目先4,5月までのことで、それまでに特定米穀を納入することが難しくなっているという切羽詰まった状況を指している。特定米穀、いわゆるくず米の発生量については農家が使用するライスグレーダーの平均的な網目1.85ミリ以下に落ちた篩下米の数量は業界の推計で5年産米は32万6327tで4年産に比べ16万3303t、率にして33%も少ない。さらには作況通りに単位面積当たりの収量が得られなかった生産者は飼料用米の数量を確保するためにくず米を増量原料に使ったのではないかと言う見方もされており、加工原料用に出回るくず米の量が統計上の推計よりも少ないと見られている。それは、新潟県は高温障害でシラタの発生が多く、こうしたコメは調整過程で割れ米になったりするのでその分くず白米の代替として使用されても良いはずなのだが、搗精業者は「そんなものはとっくになくなった」と言う。大手米菓メーカーはくず白米が不足すればMAアメリカ産を代替原料として購入できるが、国産表示して米菓を製造している中小メーカーは簡単にアメリカ産に切り替えることが出来ない。米菓の原料米使用の表示は米トレサ法で細かく規定されており、産地が2つ以上ある場合は原材料の占める重量の割合が多いものから順に記載することになっているからである。
表は、米菓業界が使用している国産特定米穀とMAアメリカ産の価格推移を示したものだが、国産特定米穀は米菓、味噌などに使用される並白と言われるものの平均価格で、MAアメリカ産は調整前の買い受け価格で、調整後の仕入れ価格は現在キロ200円近くになる。国産米を原料に米菓を製造しているメーカーは、くず白米の手当てが難しくなっているため砕米かもしくはヤケ米、そうした原料が嫌であれば主食用相当品を購入しなければならない。
制度的に位置付けられている加工用米はどうなっているのかと言うと、購入するには事前契約が必要で、米菓組合はホクレンや大潟村から加工用もち米を購入契約しているが、それらの数量は5000t程度で、個々の企業が個別契約している数量を合わせると2万tになる。うるち加工用米の使用量はもち米より少なく1万tに留まっている。うるち米の主原料は特定米穀で6万t、次がMA米で3万t、それ以外に輸入調整品を2万t使用している。うるち加工用米の価格は助成金が10a当たり2万円付くが、産地側が契約に応じるか否かは主食用米の価格比較で6年産では最低でも1000円の値上げ、中には1万2500円でなければという産地もある。
結局のところ制度限定米穀と言う法律を作り加工用米に縛りをかけて助成金を支給しても価格は安定しない。
どうしても今のコメ政策を変えないというのであれば以前あった古米になった政府備蓄米の加工用向け売却を再開すべきである。餌米として政府米を売却するより加工用米に売却した方財政負担が軽くて済み、国産米を原料にして米菓を製造しているメーカーにとっては安定した原料米を仕入れられることになる。
「コメ産業活性化」と言う会議を開くくらいなら、まず先にコメ加工食品業界の窮状を解決するのが先決で、早急に政府備蓄米を売却すべきである。
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日
-
全国のうまいもの大集合「日本全国ふるさとマルシェ」東京国際フォーラムで開催2025年9月16日
-
産地とスーパーをつなぐプラットフォーム「みらいマルシェ」10月から米の取引開始2025年9月16日
-
3つの機能性「野菜一日これ一杯トリプルケア」大容量で新発売 カゴメ2025年9月16日
-
「国民一人ひとりの権利」九州大学教授招き学習会実施 パルシステム2025年9月16日