【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】なぜ多様な農業経営体が大切なのか2024年3月28日
農業従事者の平均年齢が68.4歳という衝撃的数字は、あと10年足したら、日本の農業の担い手が極端に減少し、農業・農村が崩壊しかねない、ということを示しており、さらに、今、コスト高を販売価格に転嫁できず、赤字に苦しみ、酪農・畜産を中心に廃業が後を絶たず、崩壊のスピードは加速している。そういう中で、25年ぶりの農業の「憲法」たる基本法が改定されることになった。果して、それは、この危機的な日本の農業の担い手をめぐる状況の改善につながるであろうか。
今回の基本法改定の過程において、農村における多様な農業経営体の位置づけが後退しているとの指摘が多くなされてきた。最終的には、多様な農業者に配慮する文言は追加されたが、基本的な方向性は、長期的・総合的な持続性ではなく、狭い意味での目先の金銭的効率性を重視していることが法案全体の言葉使いからも読み取れる。農家からの懸念に、ある官僚は「潰れる農家は潰れたほうがよい」と答えたと聞いた。自給率向上を書きたくなかった理由には、「自給率向上を目標に掲げると非効率な経営まで残ってしまい、予算を浪費する」という視点もあったと思われる。
2020年「基本計画」で示された、「半農半X」(半自給的な農業とやりたい仕事を両立させる生き方)を含む多様な農業経営体の重視が弱められ、今回の基本法では2015年「基本計画」に逆戻りし、再び、多様な農業経営体を軽視し、「効率的経営」のみを施策の対象とする色合いが濃くなっている。
2015年計画と2020年計画のスライドを見比べると、一目瞭然なのは、2020年計画の図の右側と左側のうち、2015年計画では、右側がまったく同じで、左側がスッポリ抜け落ちていた。2015年計画は図の左側の「担い手」だけだったが、2020年計画には、農水省の一部部局の反対を抑えて「その他の多様な経営体」が右に加えられ、これらを一体として捉えていることが明瞭に読み取れる。あくまで「担い手」を中心としつつも、規模の大小を問わず、「半農半X」なども含む多様な農業経営体を、地域を支える重要な経営体として一体的に捉える姿勢が復活した。
このように、前回の2015年計画は、狭い意味での経済効率の追及に傾斜した大規模・企業化路線の推進が全体を覆うものとなったが、今回の2020年計画は、前々回の2010年計画のよかった点を復活し、長期的・総合的視点から、多様な農業経営の重要性をしっかりと位置付けて、揺れ戻し、ややバランスを回復し、復活した感がある。それが、今回の本体の基本法改定で、また逆戻りしたのである。
「半農半X」の人たちなどとの連携については、全青協の元会長の飯野氏の次の発言が示唆的である。「兼業農家がコンバインから何から揃えるのではなくて、例えば収穫時期なんかだったら、仮に半農半Xで平日はほかの働きをしているとすれば、土日は、オペレーターとしてコンバインを動かせばいいのです。大規模の経営体は、助かるのです。そのオペレーターがついでに自分とこの田んぼも刈っちゃうみたいな。そうすると、オペとしての収入もあるし、自分の田んぼも維持できるし、コンバイン等を持つリスクもない。今課題なのが、だんだんみんな年をとってきちゃって、大きなコンバインを買ったはいいが、そのコンバインで搬出して、トラックでカントリーまで運ぶ人員がいない。だから、せっかく早刈りのコンバインを買ったのに、眠っているみたいな状況になっちゃう。だったらトラックの運転手を土日やってもらうだけでも、これは地域のためにもなるし、自分ちの2~3町のところもそのオペをやりながら刈るとかでも、あり方としては、僕はいいと思うのですよ。水の管理とあぜの管理と水路のドブさらいをしてもらうだけでも、助かりますから。そのような真ん中の担い手を何か育てられないかなと思っているのですよね。」
今、農村現場は一部の担い手への集中だけでは地域が支えられないことがわかってきている。定年帰農、兼業農家、半農半X、有機・自然栽培をめざす若者、耕作放棄地を借りて農業に関わろうとする消費者グループなど、多様な担い手がいて、水路や畔道の管理の分担も含め、地域コミュニティが機能し、資源・環境を守り、生産量も維持されることが求められている。短絡的な目先の効率性には落とし穴があることを忘れてはならない。
中山間地直接支払いや多面的機能支払いもあるではないかというが、これらは集団的な活動への補助部分が多く、個別経営に対する支払いは不十分との声が多い。また、自治体が1/4負担することが条件になっている。自治体負担をなくし、国の責任で、個別農家への直接支払いを増額することが現場にとって不可欠となっている。
資料: 農林水産省
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