【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】コメ不足は「3だけ主義」と政策のツケ2024年6月7日
今、急速にコメ不足が顕在化しているという。いろいろな要因はあろうが、根底には、稲作農家の平均所得が1万円(時給にすると10円)というような事態に追い込んでいる「今だけ、金だけ、自分だけ」の「3だけ主義」の取引とコスト高に対応できない政策の欠陥だと思う。
買いたたきビジネスはやめるべきである。買いたたいて農家が苦しくなって生産が激減したら自分たちもビジネスできなくなる。それが今起こっている。消費者も安ければいいと思っていたら、食べるものがなくなってくる。
カナダの牛乳は1リットル300円で、日本より大幅に高いが、消費者はそれに不満を持っていない。筆者の研究室の学生のアンケート調査に、カナダの消費者から「米国産の遺伝子組み換え成長ホルモン入り牛乳は不安だから、カナダ産を支えたい」という趣旨の回答が寄せられた。農家・メーカー・小売のそれぞれの段階が十分な利益を得た上で、消費者もハッピーなら、値段が高く困るどころか、これこそが皆が幸せな持続的なシステムではないか。「売手よし、買手よし、世間よし」の「三方よし」が実現されている。
日本では、「三方よし」でなくては持続できないことがわからないのだろうか。社会全体がそうだ。今や、日本は、労働を買いたたき、先進国で唯一何十年も賃金と所得が下がり続け、先進国で貧困率が一番高い米国を抜いて1位になってしまったどころか、国連の飢餓地図(Hunger Map)で、アフリカ諸国などと並んで、栄養不足人口の多い国(ピンク色以上)の仲間入りをしている。ここまで、「3だけ主義」で一部の人だけが儲ける構造が進んで人々を苦しめている。このままでは日本社会が持続できなくなる。
買いたたきの問題を数値で確認しておきたい。筆者らは、農業サイドと小売サイドの取引交渉力のパワー・バランスを0(農家が完全に買いたたかれている)から1(農家が完全に優位な価格を実現している)までの数字で計算する手法も開発した。つまり、0.5が対等な交渉関係にあることを示し、0.5を下回っていると農業サイドが買いたたかれているということだ。
様々な品目で計算したが、ほぼ全ての品目で、0.5を下回った。つまり、総じて、農家が買いたたかれていることが数字でも確認された。農協や漁協の共販、生協の共同購入とか、協同組合の力は農家の価格を引き上げるために大きな貢献を果たしていることも同時に計算できた。例えば、農協の共販の力で、米は60kg当たり3,000円、飲用乳価は1kg当たり16円の引き上げ効果がある。協同組合の役割は重要だということがよくわかる(拙著『協同組合と農業経済』(東京大学出版会、食農資源経済学会賞・JA研究賞受賞、2022年)。
けれども、0.5を下回っているということは、まだ押されているということだ。ある仲卸業者がこんなふうに言っていたそうだ。「農家に払う価格はどう決まるかというと、単純に言えば、大手小売がいくらで売るかなのだ。それが決まると逆算して買ってくることになるから、悪いけれども、農家のコストは関係ない」と。
これが大手流通のベースだとしたら、大手流通に取り込まれていたら現場の努力は報われない。ここを抜本的に改革するために、新たな流通ネットワークを含めてどうするかということが消費者、国民全体に問われている。
もう一つは政策だ。基本法改定の議論でも、「現場への直接支払いは十分行っており、これ以上何も必要はない。それで潰れるなら潰れろ」というような姿勢が示された。収入保険は過去5年の平均収入より減った分の81%を補てんするが、売り上げだけだから、今回のようにコストが2倍近くに上昇してもそれに対応できない。
農家が継続できる支払額が達成できていない。しかし、消費者もこれ以上高くなっても苦しい。そのギャップを埋めるのこそ政策の役割だ。一刻も早く、欧米のように、生産者への直接支払いの拡充が急務になっている。それなのに、25年ぶりに農業の「憲法」を改訂してまで「何もしない」と宣言してしまった。みんなの力で何とかしないといけない。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】小麦、大麦に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2025年4月22日
-
米の海外依存 「国益なのか、国民全体で考えて」江藤農相 米輸入拡大に反対2025年4月22日
-
【地域を診る】トランプ関税不況から地域を守る途 食と農の循環が肝 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年4月22日
-
JA全中教育部・ミライ共創プロジェクト 子育て、災害、農業のチームが事業構想を発表(1)2025年4月22日
-
JA全中教育部・ミライ共創プロジェクト 子育て、災害、農業のチームが事業構想を発表(2)2025年4月22日
-
米の品薄状況、備蓄米放出などコラムで記述 農業白書2025年4月22日
-
農産品の輸出減で国内値崩れも 自民党が対策提言へ2025年4月22日
-
備蓄米売却要領改正で小売店がストレス解消?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月22日
-
新入職員が選果作業を体験 JA熊本市2025年4月22日
-
JA福岡京築のスイートコーン「京築の恵み」特価で販売中 JAタウン2025年4月22日
-
米の木徳神糧が業績予想修正 売上100億円増の1650億円2025年4月22日
-
農業×エンタメの新提案!「農機具王」茨城店に「農機具ガチャ自販機」 5月末からは栃木店に移動 リンク2025年4月22日
-
「沸騰する地球で農業はできるのか?」 アクプランタの金CEOが東大で講演2025年4月22日
-
「ホテルークリッシュ豊橋」で春の美食祭り開催 東三河地域の農産物の魅力を発信 サーラ不動産2025年4月22日
-
千葉県柏市で「米作り体験会」を実施 収穫米の一部をフードパントリーに寄付 パソナグループ2025年4月22日
-
【人事異動】杉本商事(6月18日付)2025年4月22日
-
香川県善通寺市と開発 はだか麦の新品種「善通寺2024」出願公表 農研機構2025年4月22日
-
京都府亀岡市と包括連携協定 食育、農業振興など幅広い分野で連携 東洋ライス2025年4月22日
-
愛媛・八幡浜から産地直送 特別メニューの限定フェア「あふ食堂」などで開催2025年4月22日
-
リサイクル原料の宅配用保冷容器を導入 年間約339トンのプラ削減へ コープデリ2025年4月22日