【浅野純次・読書の楽しみ】第99回2024年7月12日
◎宮竹貴久『特殊害虫から日本を救え』(集英社新書、1100円)
特殊害虫って広辞苑にも載っていません。本書によると「外国から侵入して島々に定着し作物を食い荒らし甚大な被害をもたらす」虫のことだそうです。
多くは沖縄の島々や奄美諸島、それに小笠原諸島などで、被害の多いのは瓜類、かんきつ類、イモ類など。大半は風に乗って東南アジアから飛んできます。
本書は害虫撲滅へ向けての職員、学者たちの想像を絶する戦いの記録で、ここまで苦心惨たんの記録なんてめったにあるものではありません。
ミカンコミバエ、ウリミバエ、ナスミバエ、ゾウムシなど名も知らぬような害虫と戦う肉体的、精神的苦労は、言葉では言い尽くせぬほどのものであることを知らされます。
3万匹ものオスの背に爪楊枝でペイントマーカーをつけていく。オスを誘いこんで捕獲し、不妊化させて毎日10万、20万匹単位でヘリコプターで放っていく。ふ化がゼロになるまで、つまり成虫捕獲がゼロになるまで徹底調査を続ける。そんな地道な作業と分析の上に農業は維持されているとは驚きです。
単なる離島の話かと思いきや、本州にも特殊害虫は出没するのだとか。早い段階で撲滅することが鉄則とするこの記録は、関係者への限りない感謝と信頼を生むことでしょう。
◎塚原直樹『ヒトとカラスの知恵比べ』(化学同人、2090円)
今では害鳥の最右翼に位置付けられているカラス。カラス学者の著者によると、紫外線ランプ、黄色い袋、超音波、磁石、いろんな撃退法があるが、いずれもすぐ慣れてしまう。カカシと似たようなものというので、これらをカカシ効果と呼んでいます。
カラスを撃退するには、カラスの生理・生態をじっくり研究する必要があります。本書はそうした視点から、カラス対策を実践的に提案します。
都会ではゴミ収集所でのゴミ荒らしが悩みの種ですが、これはしっかりネットや箱を設置すればいいので案外、単純です。問題はやはり農作物被害と畜舎でしょう。これはなかなか難問で丁寧な対策が紹介されます。
それにしてもカラスの賢さには改めて驚かされます。人との知恵比べといっても人が優位とは簡単には言い切れません。カラスには冬にエサがなくなって多くが餓死するとか、嗅覚が案外弱いなどの弱点もありますが、人間だって弱点だらけ。知恵比べは世紀を超えて続くのでしょう。
◎渋沢寿一『森と算盤』(大和書房、1870円)
新1万円札で渋沢ブームが再現していますが、渋沢栄一の偉いところは資本主義と道徳を融合させつつ、事業家として抜群の手腕を発揮したことです。
本書は里山資本主義を国内外で実践してきた著者が、曾祖父渋沢の「論語と算盤」を踏まえつつ、新たな地域づくりを進めるために必要な価値観を追究し、さまざまな提言を行ったものです。
日本の森は世代を超えて人とともにあったからこそ豊かに生き続けた、農村の暮らしは少し煩わしいけれど温かな社会である、などの規定が岡山県真庭市の事例などとともに述べられていきます。
持続可能性が主題ですが、「労働生産性から資源生産性へ」「足るを知るに立ち返る」「共感ベース社会の勧め」などが強調されていきます。里山を守りながら進めるべき新たな地域づくりを考え、実践していくための貴重な手掛かりとなることでしょう。具体的な事例が多いのも説得力を増しています。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日