(396)首都の場所:赤道ギニア共和国【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年8月9日
首都とは「その国の中央政府のある都市。首府。」、これが広辞苑の説明です。一方、「都(みやこ)」には別の意味があります。日本では「京の都」が思い浮かびます。では、海外ではどうなのでしょうか。
赤道ギニア共和国。この国の位置がすぐに浮かぶ人はかなりのアフリカ通だ。人口167万人、国土面積は四国の1.5倍ほど、大西洋に面したアフリカ大陸西岸、北をカメルーン、南と東をガボンに挟まれた国である。国土の上に赤道は通っていないが、大西洋上の南の飛び地の島との間に赤道が通っている。
日本外務省のサイト(注1)が示す首都はマラボ(Malabo)である。この場所が面白い。大西洋上、カメルーンからの方がはるかに近いビオコ島にある。最も近い陸地はカメルーンで50㎞程度だが、自国の港湾都市までは230㎞ほどだ。例えて言えば、日本の首都が東京ではなく三宅島と八丈島の間(御蔵島あたりか)にあるようなものだ。
この国が興味深い理由は他にもある。公用語は第1がスペイン語、第2がフランス語、第3がポルトガル語であり、これにファン語、ブビ語といった独自の言語が加わる。そもそもアフリカ諸国の中でスペイン語を公用語としている国は他には無いのではないか、と感じたらなかなかのものだ。
コロンブスによる現在の北米海域への到達(1492年)は、当時の2大強国であるスペインとポルトガルの間で統治地域をめぐる緊張を生じさせている。そこで両国は地球を2分割するトリデシリャス条約(1494年)を締結する。はるか昔のことだがその影響は現代にも続いている。中南米がほぼスペイン語であるのにブラジルだけがポルトガル語であることは有名だ。その逆のパターンが赤道ギニアの例と考えれば良い。スペインもアフリカの権益すべてを手放したくはなかったのであろう。その後の英仏の進出を経てアフリカの多くの国で英語とフランス語が中心となるが、赤道ギニアではスペイン語が第1公用語として残っている。
首都マラボは、かつてはカカオやコーヒーのプランテーションなどを主としていたが、1990年代以降はギニア湾における海底油田開発により著しい発展を遂げた。また2000年代後半からはLNG(液化天然ガス)の生産と輸出が開始され、日本にも輸出している。2010年代前半には日本から見た輸入先上位10か国の中に国名をよく見かけたものだ。
恐らく、アフリカ本土から遠く離れた島の上に首都があることの方が歴史的にも、そして現実的にもメリットが存在したのであろう。日本でも東京一極集中や首都移転のような議論が出ることがあるが、現実にここまで首都が本土から離れている例は珍しい。
しかしながら、2012年、アフリカ大陸の本土東部にジャングルを切り開いてラ・パス市(スペイン語ではCiudad de la Paz)という新首都を建設する計画が出された。英語で言えば、City of Peace、「平和の市」となる。ちなみに日本語では同じになる南米ボリビアの首都ラ・パス市は正式にはNuestra Señora de La Pazという。こちらは直訳すれば「平和の聖母」である。
赤道ギニア政府は2017年以降、政府機能をこの新都市に移転し始めたようだが、現在でも日本や米国の政府サイトによる首都はマラボのままだ。なお、日本では一時期バイデン・トランプの両大統領選候補者の高年齢が注目されたことは記憶に新しい。一方、赤道ギニアでは2022年に当時80歳のオビアン・ンゲマ大統領が6選を果たし、1979年以来の長期政権が続いている。
* *
首都の場所と歴史から見た国家...、これ以外と興味深い切り口です。
(注1) 外務省「赤道ギニア共和国」「アフリカ」「国・地域」、アドレスは、https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eq_guinea/index.html (2024年8月4日確認)
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