【浅野純次・読書の楽しみ】第103回2024年11月14日
◎川崎哲・青井未帆編著 『戦争ではなく平和の準備を』(地平社、1980円)
安倍政権による集団的自衛権と安保法制、岸田政権による安保三文書。こうした「戦争の準備を始めようとする政府へ対抗言論を提起する」ために生まれた平和構想提言会議のメンバーによって書かれた論考集です。
「進む戦争準備と沖縄」「対米従属の現在」「変容する日本の国際援助」「軍事費増大の構造と歴史」などのタイトルからも論者の危機感が伝わってきます。
「対米従属の現在」では有名なアーミテージ・ナイ報告書で提言され続けた日本の軍事力強化をハチ公のように忠実に実現してきた日本政府が、昨今ではむしろ先取りして強化を進め、それを同報告書が追認している状況が報告されます。
私たちの知らぬ間に軍事力の質的量的強化が急速に進んでいる事実が多々浮き彫りにされます。「抑止力強化」といえば戦争を防ぐため不可欠な対応策と思いがちな私たちに強い警告を発してくれる点は特に貴重です。
どうやって平和を確かなものにするかも欠くわけにいきません。「平和のアジェンダの設定」では市民・専門家・自治体などマルチな取り組みが推奨されています。戦争の可能性が日々近づいていることを改めて認識させられる、示唆するところ大の実践的「戦争と平和」論です。
◎石村博子『脱露』(KADOKAWA、2475円)
旧満州の日本軍兵士だけでなく、南カラフトにいた民間人もまたシベリアやカザフスタンに連行され強制労働を命じられました。寒さと飢えから多くが命を失った過酷な日々を、著者は8年余の歳月をかけ精査し希有の記録に残しました。
民間人ですから炭鉱夫、鉄道員、大工、運転手などみな普通の人たちです。理不尽に連行されてからの言葉に尽くせぬ苦衷の半生。生活の労苦を縦糸とすれば、内地に残った家族への思いと望郷の念が横糸となって読むほうもついつい感情移入してしまいます。
現地に長く暮らすうちに結婚する人も多いのですが、相手の多くが独ソ戦で夫を失った女性というのも戦争の真実でしょう。日ソ両政府の不作為によって、彼らの多くは所在不明となり、死亡とみなされてしまう。
ようやく一時帰国しても、夫の無事を信じて再婚せずに待っていた妻との再会とは、なんとむごい運命か。でも戦争の理不尽さを本書は淡々と語っています。渾身のドキュメントに圧倒されました。
◎松本創編著『大阪・関西万博「失敗」の本質』(ちくま新書、990円)
来年4月から大阪で開催予定の万博が迷走しています。前売り券の販売も予定の半分(それも企業向けが大半)で個人の関心は極めて低いようです。
本書はジャーナリスト、建築家、大学教授などが政治的側面、立地と建築、万博とメディア、経済効果、万博と都市といった側面から徹底的に問題点を掘り起こしています。
何よりも夢洲という立地。大阪駅や南から遠いうえ島へのルートは橋一本と建設中の地下鉄だけ。さらに埋め立ての軟弱地盤で工事は苦労の連続だとか。
プロデューサー役のはずだった電通と吉本興業がスキャンダルなどで手を引いてしまい、こちらもまったく機能していません。
根本には維新の政治家たちの独走があったことが大きく響いているようで、かつ混迷の根底には「哲学」の不在があると本書は指弾しています。巨額の国税、地方税を使っての万博。無関心ですまさず、しっかり見守っていきたいものです。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(138)-改正食料・農業・農村基本法(24)-2025年4月19日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(55)【防除学習帖】第294回2025年4月19日
-
農薬の正しい使い方(28)【今さら聞けない営農情報】第294回2025年4月19日
-
若者たちのスタートアップ農園 "The Circle(ザ・サークル)"【イタリア通信】2025年4月19日
-
【特殊報】コムギ縞萎縮病 県内で数十年ぶりに確認 愛知県2025年4月18日
-
3月の米相対取引価格2万5876円 備蓄米放出で前月比609円下がる 小売価格への反映どこまで2025年4月18日
-
地方卸にも備蓄米届くよう 備蓄米販売ルール改定 農水省2025年4月18日
-
主食用МA米の拡大国産米に影響 閣議了解と整合せず 江藤農相2025年4月18日
-
米産業のイノベーション競う 石川の「ひゃくまん穀」、秋田の「サキホコレ」もPR お米未来展2025年4月18日
-
「5%の賃上げ」広がりどこまで 2025年春闘〝後半戦〟へ 農産物価格にも影響か2025年4月18日
-
(431)不安定化の波及効果【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月18日
-
JA全農えひめ 直販ショップで「えひめ100みかんいよかん混合」などの飲料や柑橘、「アスパラ」など販売2025年4月18日
-
商品の力で産地応援 「ニッポンエール」詰合せ JA全農2025年4月18日
-
JA共済アプリの新機能「かぞく共有」の提供を開始 もしもにそなえて家族に契約情報を共有できる JA共済連2025年4月18日
-
地元産小粒大豆を原料に 直営工場で風味豊かな「やさと納豆」生産 JAやさと2025年4月18日
-
冬に咲く可憐な「啓翁桜」 日本一の産地から JAやまがた2025年4月18日
-
農林中金が使⽤するメールシステムに不正アクセス 第三者によるサイバー攻撃2025年4月18日
-
農水省「地域の食品産業ビジネス創出プロジェクト事業」23日まで申請受付 船井総研2025年4月18日
-
日本初のバイオ炭カンファレンス「GLOBAL BIOCHAR EXCHANGE 2025」に協賛 兼松2025年4月18日
-
森林価値の最大化に貢献 ISFCに加盟 日本製紙2025年4月18日