三重苦にあえぐ酪農を救え【小松泰信・地方の眼力】2024年12月4日
11月29日、石破茂首相は衆参両院の本会議で所信表明演説を行った。

危機に直面する酪農
農業に関しては、「地方創生」の枠組の中で、次のように言及した。
――農林水産業に携わる方々が安心して再生産でき、食料システム全体が持続的に発展し、活力ある農山漁村を後世へ引き継げるよう、施策を充実・強化します。――
残念ながら、首相の口だけ意欲が手遅れに近いことを、「一般社団法人中央酪農会議(所在地:東京都千代田区)は、指定団体で受託している酪農家の戸数を集計した結果、2024年10月に初めて1万戸を割り9,960戸となりました。日本の酪農は生産基盤の危機を迎えています」で始まる、同会議から12月2日に出されたプレスリリースが教えている。
酪農家の半数が「離農」を意識する
当会議が実施した「酪農家の経営状況に関する調査」(実施時期:11月15日~25日、調査対象:酪農家236人)の要点は次のように整序される。
(1)酪農経営の環境については、「とても悪い」50.0%、「まあ悪い」33.1%。8割以上が経営環境が悪いとする。
(2)経営環境を悪化させている要因(複数回答)については、最も多いのが「円安」91.8%、これに「原油高」68.4%、「ウクライナ情勢」67.9%が続いている。
(3)98.7%が生産コストの上昇を感じているが、具体的には(複数回答)、最も多いのが「濃厚飼料費(配合飼料等)」94.4%、これに「農機具費」86.7%、「光熱水料・動力費」81.1%が続いている。
(4)96.2%が収入の減少を感じているが、具体的には(複数回答)、最も多いのが「牛販売の収入」95.2%、これに「生乳販売の収入」30.4%、「乳製品販売の収入」5.3%が続いている。
(5)今年9月の経営状況は、「赤字」58.9%、「黒字」26.7%。
(6)離農を考えることの有無については、「よくある」18.6%、「まあある」29.2%、「あまりない」26.3%、「まったくない」21.2%、「わからない」4.7%。
以上から、8割以上が経営環境の悪化を訴えている。その主要因は、酪農家にとっては解消不能なものである。ほとんどの酪農家が生産費増と収入減に直面している。なお、「生乳販売の収入」よりも「牛の販売収入」の減少が圧倒的に多いことには注目しておかねばならない。黒字経営は4分の1ほどしかない。そして、半数が「離農」を意識している。
国産牛乳を支持する購入者
さらに同会議は、「生活者(月1回以上の牛乳等の購入者)の調査」(実施時期:11月25日~26日、調査対象:月1回以上牛乳等を購入している一般生活者2,884人)も実施した。注目したのは次の2項目。
(1)国産牛乳を飲める環境の維持については、「とても思う」65.5%、「まあ思う」32.5%。ほぼ全員が、国産牛乳の維持を願っている。
(2)酪農家を応援したいかについては、「とても思う」57.9%、「まあ思う」39.5%。ほぼ全員が、酪農家を応援する意向を有している。
注目すべき家族酪農経営
「酪農家の戸数が1万戸を割った。学校給食や食卓から牛乳が消える――そんな事態が現実味を帯びてきた」で始まる日本農業新聞(12月3日付)の論説は、「コロナ禍で生乳が余れば乳牛を淘汰し、足りなければ輸入を繰り返してきた政府の政策を抜本的に見直し、生産基盤を強化すべきだ」と続き、「日本から酪農をなくしてはならない」と訴える。
生産コスト増、副産物である雄子牛価格の低迷、牛乳・乳製品の消費減による生産抑制。これらを、「日本の酪農史上最悪の『三重苦』」と呼び、1万戸割れの原因とする。
「都府県の方が輸入飼料高騰が経営に及ぼす影響は大きく、戸数減のペースは早かった」とした上で、「酪農王国・北海道も決して安泰ではない」とする。23年に5000戸を割って以来、減少傾向に歯止めがかからず、「『貯金が減らないうちに』と、健全経営の酪農家が引退する例もあった」からだ。
そして、「特に飼料高騰が直撃したのは大規模経営の酪農家だ」と指摘する。なぜなら、増頭した牛に必要な農地を簡単には増やせず、輸入飼料への依存が強まるからだ。これに大規模設備の費用返済が加わることで、経営の危機は強まることに。結果、「酪農家の戸数減は、地域経済の疲弊につながり、地方は衰退する」と警告する。
そうならないためには、地域に存在する「良質な自給飼料を作り、影響を抑えた家族経営の酪農家」に注目し、「規模にかかわらず地域に多様な経営体が存在することが、地域の維持につながる」と提言する。
酪農が果たす多面的役割を評価せよ
同紙は切実な現場の声も紹介している。
23年4月に45年ほど続けた酪農にピリオドをうち、和牛の繁殖などに転換した北海道弟子屈町の新木栄氏は、「牛乳の適正価格の実現が重要。国は中長期のビジョンを示し、担い手が展望を描けるようにしてほしい」と語る。
「なんとしてもやめたくない」と訴えるのは、広島県東広島市の中山間地で約230頭を飼養する有限会社代表沖正文氏。48㏊の発酵粗飼料用稲を農家に栽培してもらい、約50日かけて収穫するとのこと。「ここまでしても、売り上げの7割は飼料代に消える」「酪農は、牛乳の供給だけでなく、飼料生産で農地を守り、堆肥でも農業を支える。牛を飼い続けられないのは苦しい」との声は、酪農が果たしている多面的な役割を余すことなく伝えている。
「やめ時を考えていた生産者が、これを機に決断することが増えている」と指摘するのは清水池義治氏(北海道大准教授)。
もちろん、就農希望者も遠ざかる。「その時は宗主国から脱脂粉乳を」なんて絶対言わせてはならない。
「地方の眼力」なめんなよ
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