コメの安定供給は関税支払いの外米に頼るしかないのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年2月4日
「もう国産米は求めないので、外国産米を1年間供給して欲しい」と外食企業から依頼を受けた首都圏の卸は、関税kg341円を支払ってアメリカ産カルローズを来年2月まで供給する契約を結んだ。納入価格はkg600円以下で国産米より安いので外食企業にとってもメリットがある。いまや外食企業や中食企業にとって安定供給を受けられるコメは関税を支払って輸入される外国産米になってしまった。SBS輸入枠を持っている商社が関税を支払って輸入することは農水省の手前、公にすることはないだろうが、今年上半期の輸入量は相当な量にのぼるという見方もある。
1月31日の食糧部会で、農水省は買い戻し条件付きの売渡のイメージを示した。ただし、具体的に販売時期や販売数量、販売価格をどうするのかなどは「今後詰める」とされただけでなにも明らかになっていない。対応案では「○ 生産量は前年産より多い一方で、集荷の大宗を担う全農系・全集連系に米が集まっていない(対前年▲17万トン(11月末時点)) ことから、生産者や小規模な集荷業者が在庫 を保有・積増ししていると推察。○在庫が分散していることで、円滑な供給に滞りが生じている状況」とされ、コメは滞留していると見ており、生産者や小規模の集荷業者を緊急調査することになった。不思議なのは農水省の調査では5000トン以上の集荷業者の報告では6年産の集荷数量は17万トン少ないとなっているが、全農系統だけ見ると12月末現在の6年産集荷数量は約150万トンで、5年産に比べ30万トン少ないため、その差を買い戻し条件で売り渡すと勝手に解釈していたがどうもそうではないらしい。
食糧部会では読み切れないほどの細かなデータが出ているので、読み切れなかった人のために重要だと思われる部分を記すと供給面では①6年産主食用米生産量は最終的に679万2000トンで5年産に比べ18万2000トン多い②6年産集荷数量は12月末現在215万7000トンで5年産同期の集荷数量に比べ20万9000トン少ない(11月現在に比べその差が3万トン拡大した)③12月末現在の6年産水稲うるち米の検査実績は375万9500トンで5年産前年同期に比べ6万2000トン少ない④広域銘柄の6年産12月末現在の検査数量は、ななつぼし21万7018トン(前年産対比114.2%)、秋田あきたこまち22万5248トン(同101.3%)、新潟コシヒカリ23万2796トン(同91.4%)、宮城ひとめぼれ12万9228トン(同96.0%)などとなっている。要するに統計上の生産量は18万2000トンも増えたにも関わらず、検査数量や集荷数量は前年を下回っているというデータが出ているのだ。このため農水省は生産者や小規模集荷業者に滞留していると見て緊急調査することにしたのだが、生産量調査統計データそのものに食糧部会出席委員から疑問の声も上がっている。農水省は公表していないが、水田面積の調査は耕地面積を290万区分したうちの4万区分しか調査していない。助成金対象になる制度米穀はちゃんと面積や収穫量が調査されているだろうが、主食用米だけ作付けしている生産者の面積は統計的な推計に頼っている。農水省は今年から1月末時点、4月末時点、6月末時点での水田面積情報も公表するとしている。ちなみに7年産の主食用米作付け動向の目安数量の集計では129万6714haとなっており、6年産実績に比べ3万9330㏊多い。数量ベースで換算すると約20万トン分に相当する。
この部分だけでも農水省は「きめ細やかな情報提供」を行っていると言えるのだが、だからと言ってコメの流通や価格が正常になるとはとても言えない。このことは食糧部会の前に開催された与党への説明会でも農水省の幹部が現状を「異常な価格」と言っているのだから、食糧法に明記されているように価格と供給の安定に努めなければならない。「買戻し条件付き売渡し」という奇策が果たしてコメの安定供給につながるのか?素直に政府備蓄米を放出するのなら買い受け資格者は現在120社もいるのだから、暴落しないように最低下限価格だけ決めてブロック別に政府指定倉庫渡しで入札売却すればよい。一端、集荷業者に貸与した形にして市中に放出するのと何が違うのか?すでに買入れ入札が終わった6年産米の数量は17万2016トンでイメージ図に示してある17万トンと符合するのだが、この分はまだ国に売り渡されておらず、所有権移転が確定するのは3月末になってからである。一端、国に所有権を移転してさらにそれを集荷団体に貸与するというのであれば4月以降になる。現状のひっ迫した情勢を見ると何とも悠長な感じを受ける。
冒頭に記した外食企業が使用するコメの全量を外国産米に切り替える決断をしたのは、コメの需要者団体として農水省に政府備蓄米の放出を要請に行った際、農水省が「政府備蓄米の放出はない」と断言したことによる。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(159)-食料・農業・農村基本計画(1)-2025年9月13日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(76)【防除学習帖】第315回2025年9月13日
-
農薬の正しい使い方(49)【今さら聞けない営農情報】第315回2025年9月13日
-
【人事異動】JA全中(10月1日付)2025年9月12日
-
【注意報】野菜類、花き類、豆類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年9月12日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政も思い切りやってほしかった 立憲民主党農林漁業再生本部顧問・篠原孝衆議院議員2025年9月12日
-
【石破首相退陣に思う】破られた新しい政治への期待 国民民主党 舟山康江参議院議員2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政でも「らしさ」出しきれず 衆議院農水委員会委員・やはた愛衆議院議員(れいわ新選組)2025年9月12日
-
ドローン映像解析とロボットトラクタで実証実験 労働時間削減と効率化を確認 JA帯広かわにし2025年9月12日
-
スマート農業の実践と課題を共有 音更町で研修会に150名参加2025年9月12日
-
【地域を診る】個性を生かした地域づくり 長野県栄村・高橋彦芳元村長の実践から学ぶ 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年9月12日
-
(452)「決定疲れ」の中での選択【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月12日
-
秋の味覚「やまが和栗」出荷開始 JA鹿本2025年9月12日
-
「令和7年台風第15号」農業経営収入保険の支払い期限を延長 NOSAI全国連2025年9月12日
-
成長軌道の豆乳市場「豆乳の日」前に説明会を実施 日本豆乳協会2025年9月12日
-
スマート農園を社会実装「品川ソーシャルイノベーションアクセラレーター」に採択 OYASAI2025年9月12日
-
ご当地チューハイ「寶CRAFT」<大阪泉北レモン>新発売 宝酒造2025年9月12日
-
「卵フェスin池袋2025」食べ放題チケット最終販売開始 日本たまごかけごはん研究所2025年9月12日
-
「日本酒イベントカレンダー 2025年9月版」発表 日本酒造組合中央会2025年9月12日