「もうだめなようだ」【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第327回2025年2月7日
前回書かせていただいた餅と日本人の話、これをもう少し続けさせていただこうと思っていたのだが、この2月の末、私の暮らしが大きく変化することになってしまった。家内と二人、仙台から転居し、子どもや孫の住む東京の郊外の老人ホームで暮らすことになり、東北を離れることになったのである。
そうなれば、当然のことながら東京での暮らしのこともこれから本稿の話題として取り上げることになろう。
ところがこれまで、その間の事情、東京引っ越しの件について本稿ではまったく触れてこなかった(私の個人的なブログには昨年末に書かせていただいたのだが)。
となると、本稿の読者の方は、なぜ私が東京にいるのか、またそんな話しをするのか等々、奇妙に思われることになりかねない。そうならないために、一々それを弁明し、説明していたら、書きたいことも書けなくなってしまう。だからといって、読者の皆さんに私のブログを読め、そうすればわかるなどと言うのも失礼な話し、皆さん方に貴重な時間を無駄に使わせてしまうわけにはいかない。
そこで今回からしばらくの間、私の暮らしの近況の一端を本稿に書かせていただくことにした。まったく私的なことで、またブログを読んでいる方には重複することになってしまうので、まことに申し訳ないのだが、お許しいただきたい。
まずは、私の子どもの頃の想い出話から話させていただきたい。
何度も何度も物忘れをする、体調をしょっちゅう崩す、子どもの頃はとくにそうだったのだが、最近の私はそのころに戻ったようだ。
私ももうだめになったのかもしれない。
そう思ったとたん、こんな言葉がふっと頭に浮かんだ。
「もうだめなようか」
「うん だめなようだ」
そして私はつぶやいた、
「そうなのだ、いよいよ私も『もうだめなよう』なのだ」
ご存知の方もおられると思うが、この「もうだめなようか」、「うん だめなようだ」という文章は井伏鱒二の短編小説『山椒魚』(1930・昭5年)のなかの一節の言葉である。それが1948(昭23)年、私の中学2年のときの国語の教科書で取り上げられていたのだが、それはこんな話である。
谷川の岩屋をねぐらにしていた山椒魚が自分の身をまもるためにそこにじっとしているうち、成長し過ぎて身体が大きくなり、外に出られなくなって一生を過ごすことになってしまう。この山椒魚の悲哀、人生の終焉を思わせるような暗い話、これが中学生だった私たちの心も打ったのかもしれない、だからだろう、その山椒魚と同じく閉じ込められてしまった蛙との会話、
「だめなようか」、
「うん、だめなようだ」、
これが同級生みんなの気に入って私たちの流行語となり、友だちとよくふざけて言い合ったものだった。
それをなぜかまた、この頃思い起こすようになったのである。
もしかしたら、何十年も日本の北国に、しかも大学という穴のなかに閉じこもって暮らし、一生をそれで終わってしまいそうな、そしてもうそろそろ「だめなよう」な時期に自分が来てるからなのだろうか。
そして、連想ゲームのように、次のようなことも思い出した。
国語の教科書のこの『山椒魚』の次に掲載されていたのが、宮澤賢治の短編童話『やまなし』(1923・大12年)だった。
『山椒魚』と同じく水の中の話、しかしまったく対照的な話であり、これまた今も忘れられないのである。
「小さな谷川の底を写した、二枚の青い幻灯です。
一 五月
二ひきのかにの子どもらが、青白い水の底で話していました。
『クラムボンは 笑ったよ。』
『クランポンは はねて笑ったよ』
『クラムボンは かぷかぷわらったよ。』」(以下省略)
幻灯機で見るカラーフィルムの絵の青く澄んだ水の色とそこに立ち昇る澄んだ泡を見ながら、そして立ち昇る時に泡が発するであろう音と、それを背景にかにの母と幼い子どもの間で交わされる会話を想像しながら聞いていると、心が透明に透き通り、また温まる(温まってはかにが困るのだが、身体ではなく心だからいいだろう)。
(次回に続く)
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