【今川直人・農協の核心】営農指導モデル2025年3月10日
宝の山
農林水産技術会議が昨年12月20日に2024年の「農業技術10大ニュース」(選定は農業技術クラブ)を発表した。次の8件が農研機構の研究成果(共同研究を含む)である。①両正条植え ②アイガモロボ ③直立りんご「紅つるぎ」④ 農業特化型の生成AI ⑤餌探しをあきらめないタイリクヒメハナカメムシ ⑥多収大豆品種「そらみずき」「そらみのり」 ⑦酪農家向けの飼料設計支援プログラム ⑧「ハウスにテグス君」(カラス被害9割減)
6者の共同研究による生成AI、濁りによる雑草の光合成を抑制するアイガモロボ、食料自給率への寄与が期待される大豆多収品種など、農研機構の技術力・動員力は目覚ましい。高い山はすそ野が広い。成果はあらゆる分野の課題を渉猟し挑戦する姿勢の産物である。このような宝が、「農協」の薄壁一つ隣りの「農業」に山積みされている。
農協の技術開発と人材育成
全農はDAC(直接空気回収技術)装置を農業分野に活用する実証実験を開始し、2024年12月3日に報道陣に公開した(同日本紙)。炭酸ガス濃度が低下する施設園芸に、液化炭酸ガスによらず収量を挙げる最先端技術を導入するものである。トマトを選んだのは施設園芸で最も栽培面積が大きいからで、汎用技術である。営農・技術センター(神奈川県平塚市)内の研究温室に設置される。
また、全農は令和8(2026)年に、新規就農希望者向けの研修施設として、令和8年春、埼玉県幸手市に「ゆめファーム全農 トレーニングセンター幸手」を設置する。約2年間の研修プログラムのもと、トマト・ナス・キュウリの栽培技術と、大規模施設園芸の運営ノウハウを学ぶことができる(研修費用は不要、研修期間中給与支給)。
全農は、品種や肥培・飼養技術の開発・改良ならびにグループ内の人材育成に取り組んでいる。全購連以来の長い歴史を持ち多くの成果を上げている。気候条件からくる作物特性に対応し、生産者・圃場により接近した活動のため、全国に地域拠点を設置している。
営農指導モデルの実装
「実装」は政策や対策の執行・実施のことであるが、最近はスマート農業技術の開発に対する実際の導入などで目にすることが多い。
2001年に営農指導を事業の第一に置く農協法改正が行われた。例外なく農協は営農指導を重要な事業と認識している。そして、70年を超える戦後の農協活動の中で、営農指導はその後のモデルとなる取り組みがみられなかった稀有な分野である。このことは、技術情報を生産者に対して伝達する手段が見出せていない事情によるのではないか。
上記のように、農協も実は「宝の山」なのである。農協が専門性の高い職員を採用し育成することが基本であるが、技術を活かす場を増やすことはさらに重要である。活かす場がなければ情報を収集する意欲も技術を磨く意欲もわかない。組合員の技術に対する意欲をどう高めるか、それをどう組織化するか、あるいはどう経済事業に結びつけるかと言った指導員の技術を活かす場の検討が連合会の営農指導研修に意識的に設計されることが有効ではないか。全農の幸手トレーニングセンターの活動に、組織が共有できる「営農指導モデル」生成につながる成果を期待したい。
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