春の彼岸の主役は沖縄のキク【花づくりの現場から 宇田明】第55回2025年3月13日
3月は花産業の最繁忙期。
卒業式・謝恩会、送別会などの行事に加えて、3月3日の桃の節句(ひな祭り)、8日の国際女性デー(ミモザの日)、14日のホワイトデーと、花の需要が非常に大きい月です。
そして、その中でも最大の需要期が春の彼岸。
この春の彼岸で主役となるのが沖縄のキクです。
世界でもっとも多く消費されている切り花はバラですが、日本ではキクです。
これはキクが日本の伝統文化と深く結びついているためです。
春と秋の彼岸やお盆といった伝統的な宗教行事では、お墓や仏壇にキクをお供えします。
そのため、キクの需要は膨大で、市場流通する切り花の40%を占めています。
日本で切り花用に生産されているキクには、大きな花が一輪の「輪ギク(出荷時はつぼみ)」、房状に花がつく「スプレーギク」、自然に枝分かれして小さな花をたくさんつける「小ギク」の3タイプがあります。
スプレーギクは、日本のキクがオランダで品種改良され、約50年前に日本に逆輸入された新しい切り花ですが、現在では世界中で生産されています。
一方、輪ギクと小ギクは、日本人の繊細な感性に基づいて長い年月をかけて品種改良された、日本独自のキクです。
そのため、国際的に生産されているスプレーギクは輸入が50%以上を占めているのに対して、輪ギクの輸入は10%ほど、小ギクに至っては数%にすぎません。
しかも、日本向けに中国で生産されたものがほとんどです。
輪ギクとスプレーギクはハウスで栽培され、加温と電照、シェード(遮光)による日長操作で一年中出荷されています。
一方、小ギクは強健で環境適応性が高いため、全国各地で露地栽培されています。
小ギクも、輪ギク、スプレーギクと同様に、お墓、仏壇のお供えとして一年中需要がありますが、露地栽培のため、本土の産地では冬の栽培が困難です。
そのため、冬から春にかけての低温期は沖縄が独占しています。
図は、東京都中央卸売市場花き部6市場に入荷した小ギクの沖縄産占有率です。
12月は90%、1月から4月は100%近くが沖縄産です。
つまり、冬の小ギクはほぼすべてが沖縄産です。
これは東京市場に限ったことではなく、全国の花市場でもおなじです。
地産地消を謳う各地の直売所でさえ、冬は市場から沖縄産小ギクを仕入れなければ、消費者に提供することができません。
このように、春の彼岸という最も大きな需要期は、日本全国が沖縄産に依存しています。
では、なぜ、本土の温暖な産地で、輪ギクやスプレーギクのように、ハウスで加温して冬に小ギクを生産しないのでしょうか?
それは、小ギクの平均価格が安いためです。
日本農業新聞アグリネット市況では、2024年の輪ギクの平均単価(過去5年平均)は60円、スプレーギクは56円ですが、小ギクは35円にすぎません。
小ギクが安いのは、墓花や仏花に欠かせない花ではあるものの、輪ギクやスプレーギクのような主役ではなく、あくまで脇役であるためです。
そのため、本土の産地がハウスで加温して小ギクを生産しても採算があわないのです。
さらに、露地栽培の沖縄と競争をしても勝ち目はありません。
沖縄で切り花生産がはじまったのは比較的あたらしく、1972年の本土復帰以降、農産物を検疫なしに本土に自由に出荷できるようになってからです。
その切り花の出荷を担っているのが、沖縄県花卉園芸農協(ブランド名は「太陽の花」)とJAおきなわ(同「おきなわの花」)です。
両農協は、3月の繁忙期には24時間体制で出荷作業をおこなっています。
また、本土の花市場では、大量に出荷されてくる沖縄産のキクが春の彼岸の風物詩になっています。
沖縄のキクは日本の伝統文化を支える重要な存在であり、特に春の彼岸は、沖縄の小ギクがなければ成り立ちません。
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