【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国内供給を放置して進む輸入米と輸出米の危うさ2025年3月21日
コメ不足感の高まり
備蓄米が放出されたが、市場の「不足感」は極めて大きい。2024年産米も政府発表ほどは穫れておらず、精米歩留まり率も9割から8割程度に落ちて、2024年産米が前倒しで流通する「先食い状態」が強まっており、今年の夏にかけて、不足感がさらに高まる可能性がある。 「流通に問題が生じているだけでコメ供給は足りている」との説明には無理がある。
根本的には、「あと5年でここでコメをつくる人がいなくなる」と漏らす地域が続出しているほどの農家の赤字は放置し、減反要請を続け、一時金(手切れ金)だけ払うから田んぼは潰せ、と誘導して、コメが作れなくなってきたツケである。
今の米価でも30年前の水準に戻っただけでコメ農家にとってはやっと一息つけるくらいで、2025年の作付けも全国で2%程度増えるだけの見込みで、市場の不足感は解消されそうにない。
「コメは足りている。悪いのは流通」という本末転倒の「流通悪玉論」でなく、「コメの供給が不足しているため流通に混乱が生じている」ことを認め、農家が安心して増産できる政策を早く示さないと間に合わなくなる。
消費者にとっても今年の米価は30年前の水準に戻っただけだが、所得が減る中での急激な米価上昇は苦しい。今、農家にとっての適正米価と消費者にとっての適正米価が乖離している。農家に増産を促し、消費者は安く買えるようにし、米価が下がっても農家の所得が得られるように支援することでコメ市場は安定化できる。
輸入米増加の末路
一方で、輸入米が増えている。コメ価格高騰の根本的解決がされないと輸入米はさらに増える。米国が狙っている。前のトランプ政権で日本は「盗人に追い銭」で25%の自動車関税を許してほしいと牛肉と豚肉を差し出した。EUやカナダはWTO違反行為には断固闘う姿勢を示したが、日本は「うちだけは許して。何でもしますから」と、中国が米国との約束を反故にして宙に浮いた大量の余剰トウモロコシまで「尻拭い」で買わされ、「犯罪者に金を払って許しを請う」(細川昌彦・中部大学教授)ような「失うだけの交渉」を展開した。
前回の日米貿易協定の交渉時の記者会見で、日本政府は米国との今後の自動車関税の交渉にあたり、「農産品というカードがない中で厳しい交渉になるのでは」との質問に答えて「農産品というカードがないということはない。TPPでの農産品の関税撤廃率は品目数で82%だったが、今回は40%いかない」、つまり、「自動車のために農産物をさらに差し出す」ことを認めている。「自動車のために農産物を譲るリスト」があるわけだ。
積み残しの目玉品目はコメと乳製品だ。これが進めば、日本のコメや酪農の崩壊が早まり、日本の飢餓のリスクが高まる。安易に輸入に頼る落とし穴にはまってはならない。
国内供給支援せず、なぜ今輸出米支援なのか
一方で、コメ輸出を8倍に増やすという目標が発表された。輸出市場の開拓は追求すべき1つの可能性ではあるが、国内でコメ不足が深刻化しているときに、まず示すべきは、国内供給の安定化政策ではないか。
輸出米を増やせば、いざというときに国内向けに転用できるというが、そんな簡単に輸出契約を解除できるとは思えない。その前に国内供給を確保するのが先だ。
しかも、輸出向けの作付けには4万円/10aの補助金が支給される。ならば、国内の主食米の生産に4万円/10aの補助金を支給して、国内生産の増加を誘導するのが明確な方向性である。
しかも、輸出振興とセットで必ず出てくるのは、規模拡大してコストダウンして、スマート農業と輸出の増加で未来は明るい、という机上の空論だ。規模拡大してコストダウンすることは重要だが、日本の農村地域を回れば、その土地条件から限界があることは明白だ。100haの経営で田んぼが400カ所くらいに分散する日本と目の前1区画が100haの西オーストラリアとは別世界だ。
中山間地域は、全国の耕地面積の約4割、総農家数の約4割、農業産出額の約4割を占める。大規模化とスマート農業でカバーできる面積は限られている。それができない条件不利地域は疲弊が進むから無理に維持する必要がないという暴論もある。それでは、国民へのコメ供給は大幅に不足するし、日本各地のコミュニティが崩壊して大事な国土・環境と人々の暮らし、命は守れなくなる。
地域の疲弊は続くから仕方ないのではなくて、それは無策の結果だ。政策を変更して未来を変えるのが政策の役割だ。集落営農で頑張っている地域もあるし、消費者と生産者が一体的にローカル自給圏をつくろうという「飢えるか、植えるか」運動も筆者のセミナーもきっかけに広がりつつある。まず、地域から自分たちの食と農と命を守る仕組みづくりを強化していこう。
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