(431)不安定化の波及効果【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月18日
去る3月30~31日、神奈川県藤沢市の日本大学生物資源科学部で日本農業経済学会が開催されました。
この学会の設立は1924(大正13)年、100年の歴史を有している。
一般に、学会には年次大会があり、日本農業経済学会は毎年3月最終週の土日で実施している。2025年度初日のテーマは「新たな時代を迎える日本の食と農-ポスト新自由主義の食農経済論」であった。これは座長、4名の報告者、1名のコメンテーターという形で500人程の参加者を前に実施されたメイン・シンポジウムである。終了後の初日夜は自由参加の懇親会があり、ここで研究者同士の情報交換などが行われる。
翌日は複数の特別セッションと個人発表である。今回、筆者は特別セッションの中のひとつ「食料の輸出規制がフードセキュリティに与えるリスクの多面的評価」に参加した。
このセッションの背景は、座長の小泉達治(農林水産政策研究所、以下、敬称略)および柏木健一(筑波大学)の解題によれば、2022年以降、世界の30カ国が食料輸出規制を実施したこと、そのため世界規模で食料価格が不安定化しただけでなく、食料輸入に依存する途上国で様々な問題が生じたこと、そして国際社会では食料輸出規制が短期的および中長期的なリスクであるという認識が広まりつつある、という点である。
これらを踏まえ、座長の2名に加え、作山巧(明治大学)および株田文博(中村学園大学)ら研究者からの報告と、コメンテーターとして首藤久人(筑波大学)、瀬尾充(農林水産省)、そして筆者の3名が参加した。報告内容は後日、要件が整えば各報告者が論文化などの形で公表する可能性が高いため、関心ある方はそちらを見て頂きたい。
筆者がコメントした報告者の中で最も印象に残ったのは株田報告の中で示された、世界の栄養不良人口の増加に対する説明である。世界の栄養不良人口は2000年から2015年頃までは大きく減少してきたが、その後は再び増加基調が継続している。食料輸出規制により食料価格が不安定化した結果、誰が最大の影響を受けるかと言えば、社会の中での弱者が最も影響を受ける。日本国内でも食品価格の高騰など同様の問題が生じているが、それを世界的に見れば途上国における栄養不良人口の増加という視点でとらえることができる。理解していたつもりだが、あらためて目の前の食料問題と世界の栄養不良人口の増加という離れた2つの点がしっかりと結びついたようだ。
以下は最後の総括のような形で述べた筆者のコメントを備忘録代わりに記しておく。
筆者は、フードセキュリティを高めるために国内的に必要なものとして、5つのポイントを指摘した。項目だけを述べれば、1)国内農業の強化、2)備蓄体制の整備、3)国内流通の強化と物流の効率化、4)関係者の意識改革と食料ロスの削減、そして、5)技術革新と新しい可能性の継続的追求、である。
例えば、2)では数量的な面だけでなく、消費期限や保存方法まで考慮した質的な配慮が今後は益々必要になる。また、5)では「まず輸出」ではなく、あくまで国内需要の安定供給を最優先した上で「適切な範囲での輸出」とすべきことや、可能性の1つとしてコメの工業利用の検討などにも言及した。
その上で、全体的な点として、「本来は制度や政策でしっかり対応すべきことを、国民一人一人の個人の責任に落とし込んではいけない」との警鐘を鳴らしたつもりである。
新基本法により、フードセキュリティの概念が、国家安全保障のレベルから、個々人のレベルにまで拡大・深化してきたことは良い。ただし、それは制度や政策が不十分な場合に国民が自己責任で全て対応せよという意味ではない。また国が不十分なものをそのままにしておいて良いという訳でもない。それぞれのレベルでしっかりした対応が必要という当たり前の内容である。
* *
同じテーマ、理解しているつもりの内容でも異なる視点や切り口で見ると、様々な新しい発見がありますね。
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