米価高騰問題を大規模農業は解決できない【森島 賢・正義派の農政論】2025年6月2日
いまの米価高騰は、備蓄米の放出で、目先の米価は下がっている。これで、米価高騰問題は収まり、国民のコメ離れは、回避できるようにみえる。
果してそうだろうか。
はじめに、言っておこう。備蓄米は、もう僅かの量しか残っていない。小泉進次郎農相は、就任直後の記者会見で、備蓄米について「需要があれば、無制限に出す」と言っていた。「無制限」と言っていたが、その後の放出で、あと30万トンしか残っていない。あと一回で、放出するコメは無くなってしまう。そうなれば、目先の米価は元の水準の戻ってしまうだろう。
この点についての論考は、別稿にすることにして、本稿では、大規模農業論について考えてみよう。
実態を見ようとしない論者たちは、仮に、今の下がったままの米価水準が続いたとしても、経営規模を拡大して、生産費を下げ、生産費を償うようにすればいい、という。
果してそうだろうか。本稿では、この点を検討しよう。
規模拡大論は、過去64年の間、唱え続けてきた農政の基本政策である。そして、未だに充分に達成されていない。これは、小農を消滅できなかった、という意味で失敗である。
規模拡大を唱え続けてきたある教授は、この失敗を予見できなかったと言って、その不明を恥じ、農業問題についての筆を折った。
だが、多くの論者は、過去64年間の失敗に目をつむり、いまだに規模拡大を夢にみて、その実現を主張し続けている。
◇
規模拡大論の、どこに陥穽があって失敗したのか。2点を取り上げよう。
第1点は、規模拡大は、日本全体でみたコメ農業の縮小を招来する。それゆえ、食糧安保の不安を深める。
第2点は、それは小農切り捨て論である。小農も、生きる権利を持っている。とうてい受け入れられない。
◇
第1点の経営規模の拡大は、日本全体でみた農業の縮小をもたらす、という点を考えよう。
下の図が、そのことを端的の示している。
この図は全国の農業地域を4つの類型に分け、各地域別に稲の作付面積割合をみたものである。これを地域別のコメの生産量割合としよう。生産量割合を直接みたいのだが、資料がないので、こうして推計する。
さて、この図をみると、山間地域は7.9%、中間地域は25.8%である。この2つの地域を合わせた中山間地域は33.7%になる。つまり中山間地域のコメ生産量は全国の約3分の1である。
この中山間地域は、機械化稲作は、ほとんど不可能である。だから、中山間地は稲作を見捨てるしかない。つまり、規模拡大をすれば残りの3分の2の地域でコメを作るしかない。
その結果、主食であるコメの自給量は、今の3分の2に激減してしまう。
これは、食糧安保がさらに危うくなることを意味する。つまり大規模農業論は、食糧安保を無視する亡国論である。
◇
つぎに、第2点である。規模拡大論は小農切り捨て論だ、という点を考えよう。
論者たちは、切り捨てられた小農は、スキルアップして転職すればいい、という。
恥ずかし気もなく、植民地根性を丸出しにした片仮名の英語を使って、市場原理主義に基づく、対米従属を公言した暴論である。
つまり、小農である多くの後期高齢者に対して、これまで培ってきた農業技術を捨て、新しい技術を習得せよ、というのである。それが出来ないなら、自己責任だから切り捨てられて当然だ、という。それが誰もが逃れられない市場原理だ、という。そうして、市場原理主義を押し付けようとしている。
◇
ここで、あらためて言っておこう。農協は、いうまでもなく協同組合である。その旗印は「1人は万人のために、万人は1人のために」である。この旗印を高く掲げ、この旗印のもとに、小農も大農も共に結集して、1人でも切り捨てられることに抵抗している。そうして、小農切り捨ての大規模農業論を拒否している。
この点を、鈴木宣弘教授は、ご自身が喝破した市場原理主義の3ダケ主義の中の「・・・自分ダケ」の部分だ、として、鋭く批判している。
切り捨てられた小農は、失業者になるしかない。
◇
もう1つ指摘しておこう。失業者を増やすことで賃金の上昇を抑えることは、資本主義が生まれながらにDNAに組み込まれている宿痾である。小農切り捨ては、このDNAの作用を増強する効果がある。
小泉農政は、小農を切り捨て、農協を潰すことで、大資本中心の財界に奉仕しているように見える。
そんなことを行ってはならない。参院選は近い。
(2025.06.02)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(167)食料・農業・農村基本計画(9)肥料高騰の長期化懸念2025年11月8日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(84)グルコピラノシル抗生物質【防除学習帖】第323回2025年11月8日 -
農薬の正しい使い方(57)ウイルス病の防除タイミング【今さら聞けない営農情報】第323回2025年11月8日 -
【注意報】冬春トマトなどにコナジラミ類 県西部で多発のおそれ 徳島県2025年11月7日 -
米の民間4万8000t 2か月で昨年分超す2025年11月7日 -
耕地面積423万9000ha 3万3000ha減 農水省2025年11月7日 -
エンで「総合職」「検査官」を公募 農水省2025年11月7日 -
JPIセミナー 農水省「高騰するコスト環境下における食料システム法の実務対応」開催2025年11月7日 -
(460)ローカル食の輸出は何を失うか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年11月7日 -
「秋の味覚。きのこフェア」都内の全農グループ店舗で開催 JA全農2025年11月7日 -
茨城県「いいものいっぱい広場」約200点を送料負担なしで販売中 JAタウン2025年11月7日 -
除草剤「クロレートS」登録内容変更 エス・ディー・エス バイオテック2025年11月7日 -
TNFDの「壁」を乗り越える 最新動向と支援の実践を紹介 農林中金・農中総研と八千代エンジニヤリングがセミナー2025年11月7日 -
農家から農家へ伝わる土壌保全技術 西アフリカで普及実態を解明 国際農研2025年11月7日 -
濃厚な味わいの「横須賀みかん」など「冬ギフト」受注開始 青木フルーツ2025年11月7日 -
冬春トマトの出荷順調 総出荷量220トンを計画 JAくま2025年11月7日 -
東京都エコ農産物の専門店「トウキョウ エコ マルシェ」赤坂に開設2025年11月7日 -
耕作放棄地で自然栽培米 生産拡大支援でクラファン型寄附受付開始 京都府福知山市2025年11月7日 -
茨城県行方市「全国焼き芋サミット」「焼き芋塾」参加者募集中2025年11月7日 -
ワールドデーリーサミット2025で「最優秀ポスター賞」受賞 雪印メグミルク2025年11月7日


































